畑の土 xii/火山放出物未熟土(1)

火山灰や火山礫の風化がまだ十分進んでいない土が火山放出物未熟土。これは、もともとやせた土だが、堆肥の施用によって改善が可能となる。ただし、取り組む農家によって出来・不出来の差が出やすいのが特徴となっている。その理由を述べていく。

農家によって出来・不出来差がつきやすい土

 畑の土は、水田の土と違って土としての“年齢”はさまざまです。なぜそうなるかと言うと、水田は水利がよく平坦な土地というように作れる場所がある程度限定されますが、畑はそれほどの制約がありません。「とにかく広くて平らな場所があったら、畑にして何か植えつけたい」と願う農家の気持ちが、さまざまな土の畑を作るのです。その中には、古い土の土地もありますし、火山灰が降り積もって間もない土地もあるというわけです。

 とくに、火山国であるわが国では、火山灰や火山礫が降り積もった広い土地がたくさんあります。そうした土地はなだらかな地形をなしますから、畑に向いているように見えます。しかも、その土の色は黒味がかった灰色です。これは肥えている土にはよく見られる土の色ですから、畑に向いているように見えるのです。

 しかし、それは一見土のように見えますが、実はまだ土にはなっていない土の原材料の段階にあるのです。中には真っ黒な降ったばかりの火山礫もあります。このような土を、土壌学では火山放出物未熟土と言います。これまで何度か説明してきた火山灰土とはまた異なるものです。

 火山放出物未熟土の場合、うまくできる場所とそうでない場所の差が大きいということが特徴になります。いいえ、それはむしろ、そうした土をうまく扱うことのできる農家とそうでない農家がいる、と言う方が正しい表現かもしれません。

堆肥施用による土づくりの奨励

 なぜ、火山放出物未熟土では、農家によって出来・不出来の差が出やすくなるのでしょうか。それは風化作用と関係があります。

 火山礫とは直径直径2~64mmのものを言いますが、このうち直径が3mm~10mm以下のものは、日本の気象条件下では風化作用で容易にボロボロになっていきます。このボロボロになるというのは、物理的風化で礫が砂のようになるということです。

 砂のような形状になったものは、畑の土(6)砂丘未熟土 iで述べたことと同様で、植物を植えるのに向いています。そこで農家は、ここを畑にしようとすることになります。

 しかし、この段階ではすべての農家で不作が続くことになります。一見肥えているような土が、実は出来ない土であったことを思い知らされるのです。

 ここで登場する次のファクターが、土づくり運動による影響です。日本の農業界では全国的に、土づくり運動というものがあります。畑には堆肥などの有機物を入れましょうという農業指導が推奨されているのです。ところが、この運動は結果が分かれます。よい土になる場合とその反対です。しかも、かなりの割合でよくない結果が出ています。

 開拓地のような、土壌としての熟成が十分に進んでいない畑に堆肥を入れると、土は肥えてきて、やせ地の欠点を改善していきます。ところが、そうではない畑つまりあまりやせてはいない畑に堆肥を入れると、いろいろな要素が過剰であることによる不都合を起こし、結果が悪いということになります。

施用の機械化で堆肥は入れ過ぎになりやすい

 その原因をもう少し詳しく述べてみます。一口に堆肥を入れると言っても、昔と現在ではそのやり方が変わっていることに注意しなければなりません。かつては手作業で堆肥を入れていましたが、現在は近代化し、機械力でまく方法が普及しています。

 この変化によって堆肥の施用量や施用頻度に違いが生じてくるのですが、そこが落とし穴です。すなわち、現在は、堆肥を多めに入れてしまう失敗に陥りがちな傾向があるのです。

 もともと堆肥は重量のあるものですから、機械化する以前は大面積に堆肥を施すというのは容易なことではありませんでした。しかし、機械力によって大量の堆肥を運ぶこともまくこともやりやすくなり、しかも疲れない作業になりました。

 さらに、畜産の大規模化によって家畜排せつ物が堆肥原料として大量に手に入るようになりました。付け加えて言えば、1999年の家畜排せつ物法施行、2001年の食品リサイクル法の施行後は、田畑で堆肥を使わせたい機運も高まっています。堆肥を入れすぎてしまう条件がそろってきているわけです。

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。