砂も土だと言うと、疑問に思ったり、あまり作物の栽培に適さない土だろうと考える人は多いでしょう。しかし実際には、砂地で野菜の優良産地というところはたくさんあります。砂の土壌としてのよさはどのようなところにあるのでしょう。土の化学性で見ると、やはりあまりよい土には見えないのですが。
砂地で優良な野菜産地は多い
今回は砂丘未熟土の圃場についてのお話です――というよりも「砂の畑」というが方が誰にでもピンとくるでしょう。これまでも何度かお伝えしているように、日本には優秀な砂の畑がたくさん広がっていて、長年にわたって立派な野菜が出荷されています。
しかし、農業の現場にそれほど詳しくない人ならば、「果たして砂地は畑になるのか?」と思われるかもしれません。そうでなくとも、「砂はやせていて、栽培に苦労するだろう」と考える人は多いでしょう。多くの人は、土が黒く、湿って、腐植が多い土は「肥えている」「よい土だ」と認めるものですが、砂地のようにさらさらと乾いていて、腐植もほとんど見当たらない土は「とてもやせている」と見て、よい土とは考えないものです。むしろ、「砂は土ではない」と思っている人も少なくありません。
この固定観念と、砂の畑で立派な野菜が取れるという話は食い違いますから、混乱すると思います。これに決着をつけるためにも、砂の畑をよく見てみましょう。
ほとんどが砂粒で粘土は少ない
冒頭に記したとおり、砂地の圃場の土は、土壌分類では砂丘未熟土と呼んでいます。
この土壌の材料は、降ったばかりの火山灰土であったり、川が運んだあるいは海流が運んだ砂であったりします。“未熟”という言い方は、それらがほとんど岩石の破片のままで、材料の風化が進んでいないということを指しています。
こうした未熟な土壌も、一定の場所で長い年月を経て、その間に、光や水の働き、植物の活動、微生物の活動、その他の動物の活動などにさらされれば、いずれは私たちが普段“砂”ではない“土”と認識しているものに変化していきます。砂丘未熟土とは、それがまだ進んでいないものというわけです。
それでも、このような“土のなりかけ”でも土の仲間に入れて考えるあたりがポイントです。
これの組成をもう少し詳しく見ていきましょう。
もちろん、砂丘未熟土を構成する要素として圧倒的に多いものは、圧倒的に砂の粒が主体です。この砂粒も、土壌学では粗砂(粒径2.0mm~0.2mm)と細砂(粒径0.2mm~0.02mm)に分けます。
また、粗砂・細砂の他にシルトと呼ばれる粘土が少しだけ含まれていることがあります。これは粒径0.02mm~0.002mmのものです。その含量はごく少ないものですが、同じ砂土と言っても場所での差は大きいはずです。さらに、同じ地域の砂土でも、耕作している農家ごとの差も、もっと大きく出るでしょう。
とは言え、やはり砂は砂ですから、その特性は基本的には変わりません。
砂は肥料を蓄える力は非常に弱い
さて、このやせた土の代表とも言える砂の畑で、どうして優良な野菜産地が出来てきたのでしょうか? その理由が知りたいところです。土壌の物理的側面と化学的側面から考えていきましょう。
まず、化学的側面で言うと、砂は肥料成分を保持する能力が最も低いクループの土壌ということになります。
世界で最も肥えた土であるウクライナの土(チェルノーゼム)は、肥料を保持する能力がどれぐらいあるかというと、塩基交換容量(CEC/第12回参照)が65ぐらいありますが、砂地は2~5ぐらいしかありません。ちなみに、日本の土の平均的な値は20程度です。
これで「肥料が蓄えられないから作れない」と考えるのは早計というものです。蓄えられないのなら、少しずつ何度も施せばいいのです。
このとき、肥料を他の一般の圃場でと同じように窒素・リン酸・カリという三要素ばかりを考えていてはいけないということになります。カルシウムやマグネシウムもその必要性は大いにあるわけですが、これらも砂はたっぷり蓄えることはできません。そこで、これらの成分をうまく与えるための特別な工夫が必要だということになります。
一般的な土では、カルシウム飽和度(第13回参照)は60%程度となりますが、CECが3程度の土ではこの割合では全く不十分で、カルシウムの供給が追い付きません。
そこでカルシウム飽和度を100%~120%ぐらいにまで高めること(第14回参照)が要求されます。こうすることで野菜が求める多くのカルシウムを吸収できるのです。