微量要素の欠乏ないし過剰の状態をみきわめることは、観察でも化学分析でも難しい。ただ、微量要素が土壌中にあるかないかを気にするよりも、土壌pHを適正に保つことが、微量要素に起因する障害を回避するのには有効だ。
化学分析でもわかりにくい微量要素による障害
前回お話したように、作物を観察しても微量要素の何が欠乏しているのかよくわからないということは多いものです。
そのことに気付いた人は、化学分析をしてみようと考えます。そこで、作物を分析してみる、そして土壌を分析してみるという一連の作業を行うわけです。ところが、これで何がわかるかというと、微量要素については相当にお金を使ったものの何も解明できなかった、ということが多いのです。
とは言え、何か思わしくない現象があって、生育が悪いということは、やはり何か栄養成分に問題があるのです。ではこの微量要素の問題はどう考えて対処していけばよいのでしょうか。
pHへの配慮が微量要素の有無よりも重要
微量要素については、前回挙げた7種類をはじめ、それらが土の中にあるとかないとかいうことよりももっと重要なことに着目することをお薦めします。
それは、土壌(土壌溶液)の酸性やアルカリ性を示す土壌pHです。微量成分とは、土壌pHに左右されることが多い成分と考えておいてください。
たとえば鉄です。鉄は土壌がアルカリ性であると、てきめんに欠乏症が発生します。その症状は、作物の主に先端あたりでまるで漂白したように色が抜けるというものです。緑が薄くなった、黄色になったというよりも、むしろ白くなったという感じになります。
そのように目に見えてひどい症状を呈することがあるのですが、ならば鉄が欠乏しているだろうと土壌分析をしても、鉄成分は十分あるという結果になることはざらです。
そんな場合でも、土壌pHを調べてみると必ず高い、つまりアルカリ性になっているものです。
欠乏の逆、過剰害も土壌pHと深くかかわっています。マンガンという成分も微量要素ですが、これは土壌溶液が酸性側に偏ると溶け出してきます。そのため、土壌中に存在するマンガンの量がそもそも多いということではなくて、土壌から溶け出してくるマンガンが増えることによって過剰害が起きるのです。逆にアルカリ側では溶け出してこないということです。
マンガンだけでなく、モリブデン以外の微量要素はおよそこの傾向を持っています。
微量要素の欠乏症が出にくい日本
ところで、日本の土壌のほとんどすべてが酸性土壌だということは何度かお話しています。つまり、日本では微量要素の欠乏は比較的出にくく、そのために微量要素への関心が低いのです。
一方、アルカリ土壌の多い海外の生産現場では微量要素への関心がたいへん高く、苦労もしています。アルカリ土壌は、酸性土壌よりも改良が難しいものです。その理由として大きなものは、微量要素をうまく効かせる状態を作ることが難しいということです。
このことを解決するためには、与える肥料全体の濃度も高くしてはいけないのです。ですから、海外の農家は肥料濃度によく気を配ります。彼らの目には、日本の農家は肥料濃度について大ざっぱだと映るはずです。