微量要素は、窒素、リン酸、カリに比べると、植物が吸収する量は遙かに少ない。しかし、その欠乏/過剰による障害は、作物の仕上がりや形に大きく影響を及ぼす。とは言え、どの微量要素が欠乏ないし過剰の状態であるかを観察で見きわめることは難しい。
少量だが影響は大きい微量要素
「植物の3大栄養素」として、窒素、リン酸、カリは有名で、みなさんご存知のことです。これらの吸収量は10a当たり5kg程度です。その次に紹介したカルシウムとマグネシウムは「中量要素」とも称されていて、10a当たりから2kgほど吸収します。
これに比べて、10a当たり多くて100g程度しか吸収しない成分があります。これが「微量要素」と称されるものです。
微量要素に起因する症状として比較的よく気付くものには、ホウ素欠乏があります。
たとえば、スーパーの店頭でセロリを見てみると、外側に何か爪で引っかいたような状態を見付けることがあるでしょう。またチンゲン菜のカップ状になった茎の下部が横に裂けた状態を見つけることがあります。それから、ダイコンの芯が赤茶色になって、煮ても硬い状態のものに当たったこともあるでしょう。これらはホウ素欠乏症の一種です。
微量要素という名前からは、影響も些細なものに感じられるかもしれませんが、このように、微量要素は作物の外観や味に大きな影響を及ぼします。
小売業や外食業の方は、微量要素についてあまりご存知ないと思いますが、味や栄養を求める仕事の方にはぜひ関心を持ってもらいたいものです。
7種類の微量要素が重要
微量要素の種類は7種類ほどですが、通常の営農指導では取り上げられない成分もかなりあります。実際には植物が必要とする微量要素は20種類ぐらいあるでしょう。
微量要素として一般に重視されるものには、いま述べたホウ素と、マンガン、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、塩素などがあります。土壌分析でも、このあたりがよく扱われている成分です。
微量要素の数が20種類程度と述べておきながら、7種類しか挙げないのはなぜかと思うでしょう。それは、これら以外は解明されていなかったり、わかっていてもそのすべてを単に土に入れればよいということでもないので、ここではこの7種を紹介するのに留めておきます。
それでも、あえてその他の成分を挙げるとすれば、ケイ素、ナトリウム、バナジウム、コバルトなどがあります。このうちナトリウムやケイ素はかなり多く吸収されるものですから微量要素という概念とはやや異なります。コバルトは微量要素として取り上げられる場合はあります。
微量要素による障害は見きわめにくい
さて、この微量要素はよく作物栽培を行う上で欠乏や過剰が問題として取り上げられます。それら欠乏状態や過剰状態を示す写真などもよく使われ、農業関係者はそれを見たり聞いたりして考えさせられるのですが、その教え方や習い方には問題もあります。
まず農業技術教育において、「これは何の欠乏症か?」といった具合に、クイズ的に教え込む風潮があります。ある1つの写真や図に対して、答えは1つという形です。また、専門書もそれにならって、「これは○○の欠乏症」「これは△△の過剰症」といった形で標本写真が並んでいるものです。
そして、そのような形で教わった頭で営農の現場に入って観察を行うわけです。すると、先に紹介したホウ素欠乏の症状のように成分によっては確かにドンピシャリの欠乏症や過剰症が見つかることもあるのですが、多くの障害は複合的に現れるものです。つまり、標本通りの症状が見つかるとは限らないということです。
このために、微量要素の欠乏・過剰を見きわめることは難しいものになっています。