畑では窒素を与えても効かないことがよくあります。それは畑の状態に大きく影響されます。“効かなかった”窒素は畑の土壌から失われ、流れた先でいろいろな問題も起こします。
圃場の状態によって窒素の効きは変わる
同じように窒素を与えても、畑によって、あるいは同じ畑でも時期や天候によって、多く吸収されることがあったり、なかなかうまく吸えないことがあったりということがあります。
これは前回触れたように土壌水分も関係していますが、畑が“熟成”した場所であるか、そうでないかということにかかわってきます。ここで“熟成”と言うのは何のことかと言うと、土壌微生物や有機物が適正に増えているということです。開墾したばかりの畑では、微生物も有機物も少なく、そのために窒素が無効になることがよくあります。
他の成分でも、与えても無効化するということはありますが、窒素ほど顕著ではありません。
アンモニア態窒素は扱いやすい
畑では窒素の吸収がうまくいかなかったり、不安定だったりする理由を考えてみましょう。これは、第18回、第19回のおさらいでもあります。
窒素は化学肥料で与えても有機肥料で与ても、土壌中では分解されてまずアンモニア(NH3)に変化します。アンモニアは水に溶けると水素イオン(H+)と結合してアンモニウムイオン(NH4+)になります。これは陽イオンなので、負に荷電している土のコロイドに吸着します。ですから、水田のように水がたっぷりある条件では、窒素は多少過剰でも流れ去ることはあまりなく、徐々に作物に吸収されます。
硝酸態窒素は土壌に保持されない
しかし畑ではそうなるとは限りません。畑に入ったアンモニアは、速やかに酸素と結びついて硝酸態窒素というものに変わります。硝酸態窒素は水に溶けると硝酸イオン(NO3−)になります。これは陰イオンで、負に荷電している土のコロイドに引きつけられることはありません。
そのため、硝酸態窒素は土壌に保持されずに相当量が流れ去るということになります。そのために窒素不足を来すこともあれば、逆に、作物の根の周辺で高い濃度になってしまって窒素過多になってしまうということもあるのです。
やっかいなのはそれだけではありません。圃場から流亡した硝酸態窒素は環境に流れ出て、地下水、河川、湖沼、海洋の水質汚濁の元になるといったことがあります。とくにチャのような大量の窒素肥料を与える作物の産地で問題となり、行政が窒素肥料施用量の規制に乗り出した例もあります。
また、硝酸態窒素が過剰であると、空気中に亜酸化窒素(N2O)という形で畑の窒素が飛び出していきます。これは笑気ガスとも呼ばれるものですが、オゾン層破壊物質でもあります。
窒素の与え方が上手でないためにさまざまな規制を招くということは、経営的にも避けたいことです。