神奈川工科大学附属図書館は捕鯨関連の資料をデジタル化し、オンライン蔵書目録(OPAC)に掲載し、資料の画像の公開を始めています(学内外の誰もが閲覧可能)。この取り組みを記念して2022年4月25日より6月23日まで同図書館内で特別展示「捕鯨の世界」と題して資料の現物やレプリカを展示を行っている(※)ので訪ねてみました。
- 神奈川工科大学附属図書館 特別コレクションデジタル化資料展示「捕鯨の世界」
- https://www-std01.ufinity.jp/kaitlibrary/?page_id=10852
- OPACでのデジタル化資料の検索結果
- https://cloud.iliswave.jp.fujitsu.com/iwjs0013opc/ufirdi.do?ufi_target=ctlsrh&code_type=OTHN&code=RESTYPE:画像資料
※図書館内の特別展示は、現在、学外者への一般公開は行っていません。
捕鯨関係の貴重書17点をデジタル公開
神奈川工科大学を設置する幾徳学園は大洋漁業(現マルハニチロ)を創業した中部家による設立ということにちなみ、同図書館では大洋漁業に関連する文献・資料を収集してきましたが、さらに同社の主たる事業の一つであった捕鯨関連の資料も充実してきたということです。
これまでに収集された捕鯨関係の貴重書コレクションは、和本7点、巻子本(絵巻物)3点、洋装本35点で、このうちの和本と巻子全点と洋装本7点の計17点をデジタル化し公開しています。これらでは、クジラの姿・形、漁と解体の様子、料理、クジラに関連して使われた道具類について知ることができます。
図書館での特別展示「捕鯨の世界」では、実物資料ならではの生き生きとした臨場感をもって貴重書に触れることができ、日本の捕鯨の文化と歴史について知り、考える機会になると感じました。
たとえば、クジラは食材としてだけでなく、油や骨などすべてが資源ですが、日本でもそれらを大切に丁寧に利用する文化と歴史があったことが、当時の絵と説明から理解できました。また、日本各地に鯨の供養塔があることも印象的でした。
これら資料のデジタル公開と実物資料の展示は、日本や日本人とクジラの関係を豊かに語るものと感じました。
図書館の田岡壮平さんは、コロナ禍で通学でキャンパスに来づらくしている学生もいる事情も踏まえ、「大学や図書館にきて、大学のルーツや関わりの深い捕鯨について知ってもらいたいです。きっと、描かれているクジラの愛らしさに驚くと思います。この展示を通じて大学に愛着をもってもらえたらうれしいです」と話していました。
また同じく図書館の相川美紀子さんは「捕鯨に関連する資料のデジタル化に関わり、人々が危険を冒して漁をしていたこと、獲ったクジラに感謝して、食料として、材料として大切に無駄を出さずに利用してきたことがわかりました」と話していました。
クジラと捕鯨の多様多彩な文化に触れる
近代捕鯨は1910年代に世界的に始まりました。日本でも行われ、とくに日本にとっては重要な輸出品であり、また戦前から1970年代頃までは国民のたんぱく源としても大切な資源でした。
一方、早くも1940年代にはクジラ資源の枯渇を心配する議論が始まり、1948年には国際捕鯨委員会(IWC)が設立され、1960年代からは捕鯨を禁止する国も増えました。
日本も1951年にIWCに加盟する一方、調査捕鯨で資源の回復状況等を見てきました。その後、2019年にIWCを脱退し、同年から改訂管理方式(RMP)という資源管理のもとで排他的経済水域(EEZ)内での商業捕鯨を再開しました。
もちろん現在も、世界には資源保護や動物愛護を論点として、日本の捕鯨に対する批判的な意見があります。そうした世界の事情も理解した上で、クジラと捕鯨について一人ひとりが考えることが大切だと思います。
そうしたことからも、同図書館の捕鯨関連資料が引き続き公開・利用され、生物学、環境学、捕鯨技術、歴史学、民俗学など、クジラと捕鯨の多様多彩な文化に、学内外の人たちが触れることができる機会が提供されていくことを期待します。