ゲノム編集トマトのデビュー

GABA高蓄積トマト「シシリアンルージュハイギャバ」の栽培モニター用苗が届きました。これについてお話ししておきたいと思います。

 2020年12月、厚生労働省はサナテックシード株式会社から事前相談を受けていた、ゲノム編集により作出された、GABA高蓄積トマト「シシリアンルージュハイギャバ」の届出を受理しました。

 GABAはgamma-Aminobutyric acid(γ-アミノ酪酸)というアミノ酸の一つで、高血圧や不眠が気になる人に向けた機能性表示食品がすでに400種余りも売り出されています。従来は穀物や野菜等でとくにこれを多く含む品種から取り出すなどが行われてきましたが、サナテックシードは既存のトマト品種にゲノム編集を行うことで、GABAを多く含むトマト品種の開発に成功しました。育種に用いられたのは、従来からの選抜による育種で開発したシシリアンルージュという品種で、これは加熱することでうま味が増す加熱調理用トマトとしてすでに10年以上市場に受け容れられている人気のある品種でした。

プランターに定植したGABA高蓄積トマト「シシリアンルージュハイギャバ」の栽培モニター用苗。
プランターに定植したGABA高蓄積トマト「シシリアンルージュハイギャバ」の栽培モニター用苗。

 届出後のサナテックシードの取り組みとして興味深いのは、そのコミュニケーションです。同社は希望者に無料で苗を配布し、栽培モニターのグループを作りました(現在はモニター募集は終了し、栽培モニターへの苗の配布が始まっている)。また、その実施前からSNSのLINEで「育てるひろば」というオープンチャットを開設しており、これには900名あまりが参加し、活発な意見交換が行われています。

 私もオープンチャットに参加してみましたが、栽培方法について、家庭菜園の経験談の交換、自分の健康に関する話題、GABAへの期待など、さまざまな話題があり、参加者の期待感が伝わってきました。

 現在、ゲノム編集に対して反対や疑問を呈する活動が全くないわけではありません。しかし、ゲノム編集とは違うものとは言え、かつて約20年前に遺伝子組換え作物が日本に上陸したときに示された消費者の拒絶反応を想うと、今回は全く状況が変わったと感じています。

 今後、「シシリアンルージュハイギャバ」の育種からコミュニケーションまでの各段階の歩みもつぶさに報告され、そのプラクティスが社会で共有されていくでしょう。

 筆者も苗を分けていただくこととなり、先週受け取ったところです。これからオンラインの指導を受けながら栽培し、またしかるべき段階で何度か報告していきたいと思います。

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 さて、それにしてもゲノム編集とは何なのか?「ゲノム」とは生物が生きるための遺伝子のセットのこと。これを「編集する」とは、どういうことか。

 くらしとバイオプラザ21では、ゲノム編集技術は、これまで私たちが行ってきた育種技術と同等の方法の一つと位置づけ、この技術の基本的な解説、遺伝子組換え技術との違い、開発中の農林水産物、そしてこの技術に期待されることについて説明したスライドを制作して公開しています。

 公開サイトでは見本としてPDFを自由に閲覧できますが、希望者にはパワーポイントファイルをダウンロードで提供しています。もともとは、研究者や教員がゲノム編集について説明するための資料として作成したものですが、教材等に自由に編集してご利用いただけます。ぜひご活用ください。

私たちのそして世界の食生活を支える育種技術
https://www.life-bio.or.jp/nbt/tool/world.html

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About 佐々義子 42 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。神奈川工科大学客員教授。