2015年8月7日、厚生労働省は、国立感染症研究所村山庁舎にある高度安全試験検査施設(BSL-4施設)を、特定一種病原体等所持施設として大臣指定したことを発表しました。
このことは食と直接に関係する話題ではありませんが、市民が関与するリスクコミュニケーションの事例として意義深いものだと見ています。そこで大臣指定に至る経緯を振り返っておきたいと思います。
世界的な感染症への対策が必要に
今回の大臣指定は、8月3日に東村山市長が安全対策の強化や外部チェック体制などを条件にBSL-4施設としての稼働に合意したことから行われたものです。
BSLとは、Biosafety Levelの略で、扱う病原体の危険度を表します。BSL-4では、最も危険な病原体と分類されたものを扱うことができます。
BSL-4で扱えるのは、特定一種病原体等で、南米出血熱ウイルス、ラッサウイルス、エボラ出血熱ウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、マールブルグウイルスです。これに対して、BSL-1はヒトに無害なウイルス、BSL-2はデングウイルス、食中毒菌、季節性インフルエンザなど、BSL-3はMERS、SARS、強毒性のH5N1型インフルエンザなどを扱います。
同施設はBSL-4の指定が可能な施設として整備されましたが、これまでの30年間BSL-3として利用されてきました。それは、地元の理解が得られていなかったからです。一方、この間に世界を行き来する人々が増えて、遠い地域の感染症が国内に現れる可能性も高まる中、たとえばエボラ出血熱ウイルスなどが日本に入ってきたときの対策が不十分ではないかという声があがっていました。
説明・見学・協議から合意へ
2014年11月17日、塩崎恭久厚生労働大臣は東村山市を訪れ、藤野勝東村山市長に西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染の状況や国内における対応体制などについて、直接説明を行いました。
同市では、国立感染症研究所村山庁舎のBSL-4施設の実験停止、施設の移転を強く要望していました。しかし、村山庁舎が担う重要な役割を考え、万全な安全対策を講ずることと市民の理解を得ることを前提として、協議を進めるという決断がなされました。
そして、2015年1月からは、市議会議員、学校関係者、自治会など、いろいろな立場の人たちが参加して、村山庁舎施設運営連絡協議会がはじまりました。これまでに6回開かれました。
見学会も4回(5月16日、5月30日、6月27日、7月18日)実施されまた。参加者のアンケートが以下に公開されています。このような施設は住宅街の中にあるべきでないという意見もある一方、丁寧な説明で理解が進んだ、安心したという感想もあります。
- BSL4施設見学会(7/18)アンケート結果
- http://www.nih.go.jp/niid/images/meeting/murayama-c/02questionnaire.pdf
これからは、市の理解を得ながら、扱う病原体を検討し、その検査方法や治療方法の研究が行われることになります。
そこで東村山市以外に住む私たちは、東村山市の方々がBSL-4施設のリスクについて考え、話し合ってきたこと、日本にとって重要なBSL-4施設はそのような思慮深い判断によって稼働できるようになることをよく理解し、覚えていなくてはならないと思います。
※参考情報
- 市長のコメント
- http://www.city.musashimurayama.lg.jp/torikumi/4374/9668/009148.html
- 協議会の記録
- http://www.nih.go.jp/niid/ja/disclosure/2323-murayama-c/5358-mc01.html
- 長崎大学のBSL-4施設に関する情報のQ&A
- http://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/about/info/news/news1852.html