消費者は放射能に関心/食行動に変化なし/農産物は産地を気にする/食の安全・安心財団の調査から

原発事故以後、外食の利用頻度はどうなったか。
原発事故以後、外食の利用頻度はどうなったか。

食の安全・安心財団が、消費者、事業者、生産者それぞれに対して、福島第一原子力発電所事故をめぐる食からの放射汚染に関するアンケートを実施しました。2月7日、3月26日に開催された講演会で、唐木英明理事と森川研究員よりその速報が報告されました。

 放射性セシウムへの不安については、そのために西日本に転居する人もいるといったこともメディアは伝えています。ただ、今回のアンケート結果からは、検査結果をそれほど気にしていない消費者像も浮かび上がりました。

消費者は検査データではなく産地をチェック

消費者へのアンケート

 消費者の8割は放射能の問題に関心を持っていると回答していますが、6割の人は原発事故後に食材購入に変化はなく、外食の利用頻度もほとんど変化がないと回答しています。また、農産物購入の際にチェックするのは「検査結果」ではなく「産地」という人が8割に上ります。

 これらからは、実際にはさほど気にせず生活しているのに、質問されると不安と答える様子がうかがえます。また、正確な情報よりもイメージで判断している人が多いこともわかります。

調査概要
調査期間:2012年1月
調査方法 インターネット調査
実査機関:食の安全・安心財団
サンプル数 2000サンプル(福島県と宮城県を除く全国の消費者)
回答者構成比 男性53.9% 女性46.2%

▼原発事故以来、放射能の問題についてどのくらい関心があるか

「大変関心がある」(32.3%)と「どちらかといえば関心がある」(51.2%)を合わせて、8割の人が「関心がある」と回答しています。

原発事故以来、放射能の問題についてどのくらい関心があるか。
原発事故以来、放射能の問題についてどのくらい関心があるか。

▼原発事故以後、食材の購入に変化があったか

「変化はない」(22.1%)と「あまり変わらない」(37.2%)を合わせて、6割の人が「変化がない」と回答しています。

原発事故以後、食材の購入に変化があったか。
原発事故以後、食材の購入に変化があったか。

▼農産物購入の際、気をつけていること

 この設問は当てはまるもの上位3つを挙げてもらう複数回答ですが、1位に挙げられたものを集計した結果、「検査結果の確認せず産地を気にする」人※が8割と、とくに多くなっています。

※回答「検査結果を確認せず産地を気にする」59.0%と「検査結果の確認せず西日本を購入」18.3%の合計。

農産物購入の際、気をつけていること(上位3つの回答の内、第1位集計)。
農産物購入の際、気をつけていること(上位3つの回答の内、第1位集計)。

▼原発事故以後、外食の利用頻度はどうなったか

「利用減少」と回答した人は1割に留まり、8割の人は「利用変化なし」と回答しています。

原発事故以後、外食の利用頻度はどうなったか。
原発事故以後、外食の利用頻度はどうなったか。

▼外食の際、気にしていること

 上位3つは、「料理がおいしい」(19.0%)、「価格」(18.4%)、「店舗の雰囲気」(11.7%)の順。これは従来の外食産業の調査の結果と同様です。

「放射能の自主検査実施」(0.9%)は最も少ない結果でした。「アレルギー表示」(0.9%)も同数です。

外食の際、気にしていること。
外食の際、気にしていること。

▼放射性物質の新基準について/年間5mSvから1mSvに改正されることの認知度

「聞いたことがある」が5割と最も多く、「知らない」が3割、「知っている」が2割という結果でした。

放射性物質の新基準について/年間5mSvから1mSvに改正されることの認知度。
放射性物質の新基準について/年間5mSvから1mSvに改正されることの認知度。

▼5分類から4分類への変更について思うこと

⑦ 食品の分類が5つから4つになったことについて

「不十分」と回答した人が2割で、「大変良い」と回答した1割を上回りましたが、7割の人は「わからない」と回答しました。

5分類から4分類への変更について思うこと。
5分類から4分類への変更について思うこと。

▼自分で放射性物質検査結果を確認したことがあるか

 8割の人が「確認したことはない」と回答しています。

自分で放射性物質検査結果を確認したことがあるか。
自分で放射性物質検査結果を確認したことがあるか。

▼放射能に関する勉強会・意見交換会への参加状況

「わりと参加している」は少数ですが、「参加したいが、時間がない」と合わせると、勉強会・意見交換会への関心を示している人は2割となります。

 残る8割の人は勉強会・意見交換会に強い関心はなく、うち6割は「全く参加したことはない」と回答しています。

放射能に関する勉強会・意見交換会への参加状況。
放射能に関する勉強会・意見交換会への参加状況。

▼放射能に関する情報はどこから得ているか

 上位3つは、「TV」(34.4%)、「インターネット」(23.6%)、「新聞」(20.8%)の順でした。

 なお、Web調査であるため、全ての回答者がインターネットを使用できる環境にあることが前提となっています。

放射能に関する情報はどこから得ているか。
放射能に関する情報はどこから得ているか。

外食事業者と生産者へのアンケートの速報

 また、外食事業者と生産者へのアンケートの結果の一部も報告されました。これらは、食の安全・安心財団から、今後、分析結果が公表されることになっています(調査期間、実査機関は、消費者へのアンケートと同じ)。

外食事業者の6割が放射能検査を実施

外食事業者へのアンケート

 外食事業者へのアンケートは、日本フードサービス協会の協力で会員に調査票を郵送して行いました(配布数429社、回収95社、回収率22.1%)。

 これによると、外食事業者の6割が自主検査や検査機関への委託によって放射能検査を実施していることがわかりました。

 原発事故の影響が大きかったと回答した事業者は4割で、具体的な影響として挙げられたトップは売上の減少、2位は自粛ムードや節電による客足の落ち込みでした。

「安全確認ができたならば、積極的に東日本農産物を使いたい」と回答した事業者は4割でした。ただ、今は静観して扱っていないという所が多いようです。

東北の生産者は風評被害長期化を懸念

生産者へのアンケート

 生産者へのアンケートは、農業法人協会の協力で会員に調査票を郵送して行いました(配布数890社、回収265社、回収率29.8%)。

 風評被害について、関東・中部地方の生産者は2~3年で終息するだろうと回答していますが、東北地方の生産者はもっと長びくと回答しています。

 これからの取組みついて、東北の生産者は「いい品質の生産物をつくっていく」つもりだと回答していますが、販売促進などは行っていないようです。

 生産者の6割は放射能検査を行っています。

リスクコミュニケーションがさらに重要に

 多くの生産者が放射能検査を行っているのは「消費者の要望に応えるため」ですが、消費者へのアンケートの項で説明したように、実際に検査結果を見ている消費者は少数です。検査を求める一部の人たちの声に事業者は振り回されているのでしょうか。

 とは言え、大半の消費者が検査結果を見ていないからと言って、消費者が不安を抱いていないと結論づけるのは飛躍かもしれません。

 また、外食事業者や生産者には行政が決めた以上に厳格な検査をしているところも少なくありませんが、これは行政が信頼されていないことなのでしょうか。

 リスクコミュニケーションのイニシアチブは誰が取るべきでしょうか。誤解や混乱を拡大しないためには、政府の信頼を回復することと、リスクコミュニケーションを工夫を重ねながら実施していくことが重要です。

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About 佐々義子 42 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。神奈川工科大学客員教授。