2011年4月4日、生活クラブは、飼料サイロおよび配合飼料工場(八戸・石巻・花巻・鹿島)の損傷によりNON-GMO配合飼料が製造できなくなったために、緊急措置として不分別(GMO)の配合飼料の給餌を始めたことをホームページで発表しました(生活クラブ「災害対策・第24報」)。
緊急措置で不分別飼料の給餌を開始
生活クラブは遺伝子組換え原料を利用しない方針で運営されてきましたが、今回のような品薄の状況は初めて経験であるとし、4月24日現在も不分別飼料の利用を続けています。組合員への安定供給を第一にした勇気ある決断であると思いました。
また、岩手生協では、震災による飼料の入手困難から不分別飼料に切り替えて4月11日から朝配達牛乳の販売を再開しました。一時的に不分別飼料を使用するものの、福島第一原子力発電所の事故の影響で原乳を廃棄しなくてはならず、酪農家の応援を意味もこめて「朝配達牛乳を購入してほしい」とコメントしています。
開示があれば消費者は支えるという例はあった
日本の畜産業は海外から輸入する飼料に大きく依存しています。今日、当然のことながら、トウモロコシ、ダイズなどの飼料の多くは遺伝子組換え作物を多く含んでいます。もちろん、飼料として遺伝子組換え原料を与えたり、遺伝子組換え作物が混じっている可能性がある不分別原料を使った飼料を与えたりしても、得られる食肉、卵、牛乳にはなんら安全性の問題がないことは審査によって明らかです。けれど、通常は輸入飼料への表示は行われていないため、遺伝子組換え原料が含まれている輸入飼料がこれほど深く私たちの食卓に関わっていることを意識していない人も多く、「国産飼料使用の方が安全だ」と思い込んでいる人もいます。
震災以前から不分別飼料を利用し、それを開示してきた生協もあります。エフコープ(福岡)では2006年から不分別飼料使用の牛乳、2009年から同じく鶏卵。コープこうべでは2009年から「熊本阿蘇健やか牛乳」で不分別飼料を用いています。2009年ごろから、飼料高騰を主な理由として不分別飼料に切り替えた生協は少なくありません。コープ神奈川は機関紙「MIO」(2010年10月号)で、「味菜卵」に不分別トウモロコシと国産飼料米を用いることを組合員に知らせました。
生協には、遺伝子組換え作物、同食品ばかりでなく、食品添加物や農薬に関する情報を機関紙に掲載し、リスクコミュニケーションを実施しているところがあります。また、私たちは、これらの生協が不分別飼料利用を公言しても、組合員に支えられながら運営されていることを知っています。
コミュニケーションが安定供給の前提守る
大手流通ではどうでしょうか。イオンは、「グリーンアイ」シリーズの一つである海外飼育のタスマニアビーフで、次の「4つの約束」を掲げ、品質の徹底管理を行っています。
- 成長ホルモン剤、不使用。
- 抗生物質、不使用。
- 肉骨粉(25年以上前から)、不使用。
- 遺伝子組換え飼料、不使用。
しかし、国産の鶏、豚については、遺伝子組換えでない飼料の安定供給が困難なことから「遺伝子組換え飼料は不使用」の表示には至らないとのことです。
少なくとも飼料の確保において、生協、大手小売業の対応はとても落ち着いて見えます。今まで遺伝子組換え飼料を避けてきた生活クラブも、今回初めて不分別飼料に変更するという決断に当たって、「安定供給」という大前提を堂々と示し、泰然とした対応に見受けられます。
また、市民も、初めは買占めに走ったりという行動も見られたものの、今は比較的に落ち着いて行動しています。流通側から状況を正しく説明し、呼びかければ、日本の消費者はそれに応える――そのことを認識できている団体・事業者は、冷静な判断ができているのではないかと思います。消費者を“買うなら誰でも”という単なる買い手と見るのではなく、「組合員」としてあるいは「顧客」として接し、情報提供、リスクコミュニケーションを行ってきた成果だと言えるかもしれません。
一方、食品メーカー2社が福島県の農業団体に対し、これから作付けされる加工用トマトの栽培契約を見送る意向を伝えていたことという報道がありました。
新しい“賢い消費者”へのステップに
これらの企業は、放射能検出値の変化により供給が滞る懸念、そのために顧客に迷惑をかける可能性を考えて丁寧に対応しているものなのでしょう。けれども、「遺伝子組換え不使用」を謳ってきた生協が不分別飼料を選択した決断を思うと、情報提供などで顧客の理解を促ながら、それらのトマトを利用出来なかったものでしょうか。
同時に、消費者である私たちも、現状を理解して冷静な判断ができることを、購買行動を通じて表明し、説明されれば冷静に対応できる消費者として、生産者、流通、食品メーカーから信頼される存在でありたいと思いました。