2011年3月、食のリスク情報発信を行う国際的なサイト“International Center of Excellence in Food Risk Communication”が発足しました。このサイトでは、行政、健康に関わる専門家、ジャーナリスト、研究者、生産者、流通、市民などあらゆるステークホルダーに対して、食品の安全、健康、栄養に関するデータや情報を提供し、コミュニケーションを行い、理解の増進を図るということです。
サイトの中には、リスクコミュニケーションの何たるかを説明するコーナーや、専門家向け、市民向けの情報提供のコーナーが別々に設けられています。
また、このサイトを印刷して気付いたのですが、どのページもA4判1枚に収まるようにデザインされており、非常に利用しやすい工夫がされています。日本の地震・津波・原子力発電所事故による日本からの輸入規制に関する記事も簡潔に1枚でまとまり、さらに詳しく知りたい人のためのサイトのURLが紹介され、使う人への配慮があります。
このサイトで注目すべきことは、米国で活動し信頼されている民間のIFICFoundation以外はすべて国に関係した公的機関であることです。また、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカなど、複数の国がかかわっています。ことに、米国農務部(USDA)が運営母体に入っていることは注目すべきことで、米国農務部の積極的に関わる意志がうかがえます。食の文化は、国、人それぞれではありますが、農政を進め、国民の健康と栄養を守る「国」が、このようにはっきりとした態度を示すことは、食の安全、健康、栄養に関わる政策を進めるうえで極めて重要であると思います。
- Food Standards Australia New Zealand
- Health Canada
- International Food Information Council Foundation(IFIC Foundation)
- Joint Institute for Food Safety and Applied Nutrition
- National Center for Food Protection and Defense
- United States Department of Agriculture(USDA)
ここに参加している唯一の民間団体であるInternational Food InformationCouncil(IFIC)は、かつて、日本でも、そのパートナーとなる組織(JapanIFIC)が設立され活動を始めようとしましたが、活動に必要とされる資金が日本では乏しく解散してしまいました。
IFICついて詳しいバイテク情報普及会(CBIJ)事務局長の福富文武氏によれば、「IFICでは、食と栄養、健康関連についてのトピックスについて、幅広い情報を一般市民が理解しやすく解説し、また、食や健康について担当するジャーナリストに向けて『メディア・ガイド』というハンドブックを製作して配布、トピックごとに詳細な解説をするとともに、さらに詳しい情報を得たい人のために、専門の科学者のリストを掲載している」ということです。
これらの各分野の科学者は、科学の話をきちんと伝えていくために、取材を受けることを歓迎しており、「専門ではないのに、声高に科学を語り世論を間違った方向に誘導する“偽科学者”が海外でもPseudoscientistとして問題になっている」(福富氏)状況と関係していると考えられます。このようなセンターが正しい情報提供を行っていけば、長年きちんと蓄積されてきた科学基盤を“偽科学”から守ることも可能かもしれません。
日本には報道記事を批判する専門家は多くいますが、報道からの問い合わせに門戸を開いている専門家は少なく、ジャーナリストが専門家にコンタクトする環境が整っていません。筆者も10年ほど前に、日本で開催されるバイオテクノロジーの国際会議に向けて、植物バイテクノロジーや食品科学の研究者の方々にメディア対応へのご協力をお願いしたことがありましたが、専門家リスト作成に賛同してくださった方々の8割くらいから、実際にお名前を頂く段階で、現役であることを理由にお断りされてしまいました。
連日、報道されている放射能と食品についても、コンタクトしやすい専門家が限られてしまうと嘆くジャーナリストもいます。対応する専門家が増えると幅広い情報が得られ、忙しい研究者にとっても特定の人に問合せが集中することもなくなり、両者に有利なのではないでしょうか。