ワインの国内陸送で攪拌ダメージはほとんど避けがたい。それでも、平箱から縦箱への詰め替えや積み込み時の工夫などでダメージを最小限にする工夫を取り入れることはできる。
攪拌ダメージを避けるには縦箱化が必須
日本到着までの輸入ワインはリーファー・コンテナ輸送される場合は、15~18℃設定が常識化しているようであり、事情に精通した輸入業者のワインは取りあえずの品質を維持できていると言っていい。
だが、平箱横臥詰めのワインを攪拌ダメージなしに輸入することは不可能である。現状、ボトル詰めされたワインの攪拌ダメージを最小限に留める方策は縦箱正立詰めにする以外にはない。また、縦箱正立詰めのワインであっても“不必要な旅”をしたワインは手にしないことが賢明である。第三国経由や第三者ストックのワインなどは論外で、生産者が出荷した品を直接調達することが基本である。
またくどいようだが、天然コルク栓と一部の加工コルク栓に関しては、縦箱正立詰めにするには第72回で述べたような加工が必要であることを認識して欲しい。
国内陸送で攪拌ダメージへの配慮は期待できない
さて、前回冒頭でも述べたように、日本国内での輸送時のワインの品質管理事情はお寒い。
首都圏のワイン関連事業者には、リファーシステムジャパン(RSJ)の手で取りあえず満足できる品質を維持して手渡されることが可能なのだが、首都圏以外の国内ワイン関連事業者はこの恩恵を受けられないのが現状である。
さらに国内陸送段階の攪拌ダメージ関しては、これを考慮している物流関係者は全国津々浦々皆無と言ってよい。
つまり、国内陸送段階では、温度ダメージとそれに関連して起こる“二次被害”であるボトル内過剰酸素流入ダメージがある上、これに加えて攪拌ダメージにも無防備なままなのだ。
そして、これらのダメージが最も心配されるのが、むしろ高級ワインであるということは重ねてお伝えしておく。2012年現在、高級ワインの大半は未だコルク栓を採用したボトルであり、かつ平箱横臥詰めの場合が大半であるからだ。
攪拌ダメージを避ける自衛措置
輸送段階で攪拌ダメージが考慮されない現状で、これの軽減を期すには、少なくとも自社で管理できる範囲で可能な限りの手は打つべきである。すなわち、具体的には平箱横臥詰めのものは縦箱正立詰めに詰め替えすることだ。
ただし手間=コストはかかる。これに対して、より着手しやすい方法は、平箱横臥詰めのパッケージを縦置きするように仕向けることだ。まず、平箱の中身の6本のボトルが正立ないし倒立している状態に平箱を立てて荷台に積み込むことを励行する。あるいは輸送業者にその指示を付けて発注する。
ただし、この場合は箱が倒れやすいので注意が必要だ。そこで、できれば2ケースを結節バンドで固定して縦置きしやすい1個の荷とすることが望ましい。
もしそれもできない事情があるならば、せめて平箱横臥詰めの中のボトルの向きが、車両の進行方向に対して横向きになるようにする。
ボトル内の液体の移動は、ボトルの横方向よりも縦方向(頭/底の向き)の方が移動量が大となる。したがって輸送時にはボトルを立てることがその移動量を最も抑えやすいということになるのだが、それがかなわなければ、その次に揺れが少ない向きを選ぶしかない。つまり、ボトルの頭と底が車両の進行方向と垂直=車両の左右方向向きになるように積み込むということだ。
国内を走る車両は、右左折の回数よりも発進/停止や加速/減速の回数の方が圧倒的に多いはずだ。また右左折には減速が伴うのだから、右左折時の加速度は左右方向よりも進行方向に対してがより強いということになる。
このことは簡単に目で確かめることができる。ワインなり水なりの入った2本のボトルを用意して、車に乗る。それらを助手席に横たえ、1本は瓶口をダッシュボードないしはシートの背もたれに向けて、1本は瓶口をドアないしは運転席の自分に向けて固定する。それでしばらく市街地を走行してみれば、両方のボトルの中身がどんな目に遭うかは一目瞭然だ。なお、脇見運転は危険だから、この実験はできれば運転する人と観察する人の2人でやっていただきたい。
以上の改善案は、東西運輸/RSJの村田社長ならびにスタッフの方々には、もしお気付きでなかった場合は、すぐにでも実施をお願いしたい事柄である。もちろん、液体商品の輸送品質向上で差別化を図りたいと考えている方々にも、ぜひご検討いただきたい。