ワインを運ぶ際、縦箱正立状態としたほうが品質が保たれるとすれば、天然コルク栓ボトルで問題となるのは、コルクの乾燥萎縮だ。それを回避するために輸送時間の短縮を提案したが、一方で乾燥萎縮を遅らせるか止める方法はある。最も取り組みやすいのは、フィルムで包んでしまうことだろう。
天然コルク栓を乾燥萎縮させないアイデアはたくさんある
さて、天然コルク栓を使っているワインを縦箱正立状態でリーファー・コンテナ輸送する場合、問題となるのはコルクの乾燥萎縮による空気流入=酸化である。この不都合を発生させない方策は、これまで述べたように輸送期間の短縮以外にはないのだろうか。
否である。いくらでもあるとは言わないが、ケースバイケースでさまざまな工夫が考えられる。思い付くままに列挙してみよう。
(1)キャップ・シールを廃止し、昔の蝋封に戻す。
(2)伸縮性の高いフィルムでラッピングする。
(3)無穴キャップ・シールをボトル・ネックに隙間なくテーピングしてしまう。
(4)無穴キャップ・シールをボトル・ネックに隙間なく接着してしまう。
(5)ボトル単位でフィルムで完全密閉してしまう(常圧)。
(6)複数ボトル単位で、フィルムで完全密閉してしまう(常圧)。
(7)段ボール・パケージ内側で樹脂袋に詰めて完全密封してしまう。
(8)段ボール・パケージ素材を気密性の高い素材に変更する。
(9)段ボール・パッケージをフィルム・コーティングして気密を上げる。
(10)フィルム・コーティングされた段ボール・パッケージの接合面を接着剤や丁寧なテーピングによってシールし、完全密閉化を図る。
(11)リーファー・コンテナ内に加湿機を設置して作動させる。
(12)加湿機能付きリーファー・コンテナを開発する。
輸送期間中の対処だけ考えても、これだけ出てくる。
なお、(11)(12)はカビの発生によるラベル汚損の頻発が予測できるのでお薦めできない。天然コルク栓使用ワインの国内貯蔵期間および流通期間までも含めた長期的対処となれば(3)(4)(5)(6)(7)(9)(10)であろう。さらに、売り場陳列やエンド・ユーザーの貯蔵への便宜供与を考えれば(5)である。
信頼性の高いフィルムでボトルごと包む
私はかつてデファンスール・パックというものを考案した。これは窒素ガス充填した樹脂フィルムの風船でボトルを包み込んで密封するというものだった(当連載タイトルの写真参照)。密封しているため、天然コルク栓ボトルでもワインを外気から完全に遮断できる。フィルムを1枚とせず二重にしてフィルム間に窒素を充填するのは、風船の陽圧でボトルを封じ込め、また振動や温度変化をやわらげることを狙ったものだが、さらにこれがしぼんでいなければ密閉性が保証されるということでもある。いわば、密閉状態を可視化したわけだ。
しかし、フィルム強度の信頼性が高く、それを傷つけるような取り扱いがされない荷役上の信頼もあれば、デファンスールのような陽圧パックの必要性は減少する。
また、ボトルに対してタイトなフィルムの袋であれば、シールした内部を窒素置換する必要性もないだろう。閉じ込められる空気はわずかであり、しかもその中の酸素は21%でしかないのだから。デファンスールには封入した窒素を逃がさないために逆止弁も備えていたが、そのような構造も必要ない。したがって特許でも実用新案でもなく、自由に採れる対策である。
これに使える摩擦に強く穴の開きづらいラミネート素材の開発は日本メーカーのお家芸だから、ぜひフィルムメーカーと共同で開発を進めるべきだ。贅沢をするなら食品用真空パック・フィルムを使用することだが、必要以上に負圧をかけて封をすると、ボトル内の陽圧で数分後にはワインが吸い出されてしまうという危険もあるのでご注意いただきたい。
これらのほかに、コルク栓を使いながらコルクの乾燥萎縮を防ぐ方法としては、樹脂含漬したコルクや皮膜を施したコルクを使うこと(第63回の写真「最近のワイン用コルク栓の例」およびジェイミー・グッドの「ワインの科学」255ページ参照)だ。これはもはや天然コルク栓の自己否定であるが、これは意外に進行している現実であろう。
ジェイミー・グッドの「ワインの科学」(原書2005年刊・和訳2008年刊) 255ページのわずか3行だけの「プロコルク」(ProCork/商標。http://procork.com/)についての記述は見逃していた。また、マット・クレイマー氏が著書「ワインがわかる」(マット・クレイマー著、塚原正章・阿部秀司訳、白水社。原書1989年刊、和訳1994年刊)の中で、天然コルク栓の機密が高いと言っていたのは、こうした樹脂加工を施した“天然コルク栓”とでも位置付けるべき「プロコルク」等の登場による混乱ではなかったかと推測できる。
現在、世界中で正立陳列されている天然コルク栓使用と見なされたり思い込んでいるワインのうち、どれが真正天然コルク栓使用であり、どれが樹脂加工コルク使用であるか、何年から切り替えたのか、あるいは戻したのかは詮索し、蔵元へは情報公開を求めるべきである。技術は改良も改悪も、刻々と進行していることを肝に銘ずべきだろう。
そもそもこのような樹脂加工コルクを用いようとするならば、スティルヴァン・スクリューなどのスクリュー・キャップを使えばいいはずだが、ユーザーは機能よりも見た目に満足や安心を感じる傾向があるということだろう。