リムーザン・オーク樽を使うメゾン・ルモアズネ社

メゾン・ルモアズネ社は、ワインの熟成に一般的なセシル・オーク樽ではなくリムーザン・オーク樽を使う。私はそれによってどのような違いが出るのかを確認したかった。リーファー・コンテナで着荷したそれらは、はっきりとした違いを語った。

リムーザン・オークを使う「メゾン・ルモアズネ」

「ギャラリー・デュ・ヴァン」(La Galerie du Vin)の在庫から選んだもう一つ、メゾン・ルモアズネ社(Maison Remoissenet)のブルゴーニュの古酒は、第1回輸入量各24本の半分は、安井康一氏(新玉川屋酒店)経由で「銀座レカン」に納品された。同社ワインをチョイスした理由には特別のわけがある。メゾン・ルモアズネ社のワインは当時日本に未輸入であり、かつ確認したいことがあった。当時の同社オーナーであるロランド・ルモアズネ氏には貯蔵樽に対して特別な思い入れががあると聞いていたのだ。

 通常、フランス・ワイン用の熟成樽には、セシル・オーク(Sessile oak)と呼ばれる、白っぽい色のドングリが生る樹種が使われる。しかし、ボルドー・ポーイヤック(Pauillac)のシャトー・ラトゥール(Château Latour)とブルゴーニュのルモアズネ社の熟成樽は、濃い茶色のドングリが生る樹種、リムーザン・オーク(Limousin oak)とも呼ばれるコモン・オーク(Common Oak)で造られていると聞いていたのだった。リムーザン・オークと言えばコニャック・ブランディ用の熟成樽として有名である。

 私としては、個人的には「永遠に飲み頃が来ないのではないか」と危惧していた「シャトー・ラトゥール」の熟成の遅延原因が、リムーザン・オーク樽に由来するのではないか? また、コニャックの名品ジャン・フィーユは果たして本当においしくなるのか? といった問いを抱えていたのだ。

絶頂期までに50年を要するか

 メゾン・ルモアズネ社のワインは、その答えを明快に示してくれたと今でも思っている。同社のブルゴーニュの古酒をテイスティングしてわかったのだ。「シャトー・ラトゥール」が絶頂期を迎えるには、はずれ年でも50年を要するかも知れないということと、50年を経てブショネを発生させない工夫が必要であろうことである。

 ブショネと言えば、コルク処理時に使用する塩素系ケミカルの残留によって発生するトリクロロアニソールが最近大きく問題視されている。しかし、ここで私が問題としているブショネとはそのことではではない。本来の老化し、劣化したコルクが発する木質臭のことである。

 当時のメゾン・ルモアズネ社のオールド・ヴィンテージ・ワインは、同社が定期的にコルクの打ち直しをしながら熟成管理し、出荷時にはビン内に発生している澱を吸い取り、その目減り分を補充し、新たなコルク栓を打ち直して出荷していたのだ。このコルク交換(リコルク)の周期は20~25年であったらしい。

リムーザン・オーク樽の男性的な香味

 さらに、「シャトー・ラトゥール」とコニャック「ジャン・フィーユ」(Jean fillioux)のセップ・ドール(CEP D’OR)に共通する男性的な香りはリムーザン・オーク樽に由来するものに間違いないと確信した。そして、長い時間経過の後にはセシル・オークの樽で熟成させたワインとは異質で、男性的な香味に変化することが確認できた。

 余談だが、これからしばらくしてユナイテッドリカーが「ジャン・フィーユ」の高級品「レゼルブ・ファミーユ」(推定30~50年熟成のブレンド)を輸入したときはすぐに仕入れたのだが、感動するうまさはなかった。

 しかし、それから20年後の自店の廃業時に残っていた同一品を開封してテイスティングして驚き、感動を覚えた。まさに絶品と言ってよい状態に至っていたのだ。

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About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。