ラベルに潜む危険(2)

ワインのラベルでとかく問題を生じやすいのは、年号表示をメイン・ラベルではなく、肩ラベルで行っている場合だ。これは蔵元での貼り付けミスの可能性もあるもので、偽装も行われやすいので要注意だ。しかし、最も重要で効果が上がる対処法は、そもそも結露を起こさないことだ。

年号表示の肩ラベルは曲者

 さてメイン・ラベルであるが、第11回で述べたように、EUワイン法あるいは加盟各国ワイン法に基づいてさまざまな記載がある。

 注意を要するのは年号記載である。メイン・ラベルには年号の記載がなく、その替わりに年号表示のみの肩ラベルを使用している場合がある。この種のボトルは、蔵元段階でも誤認貼り付けの可能性があるという危険をはらんでいる。

 また輸入業者が、注文数に対して目的年号の在庫が数本足りないとき、手もとに貼り替え用予備ラベルがあればどうか。貼り替えてしまいたい誘惑に勝てる業者ばかりではないのである。もちろん、信用失墜のしっぺ返しを考えれば、誘惑を振り切っている業者が多いのだろう。

季節外れのサンタ

 では、倉庫業者や入出庫代行業者が誤出庫により、帳簿在庫と現実在庫を狂わせてしまった場合はどうだろうか?

 安いオーダーに対し高額品を誤出庫した場合は、送付相手からの交換要請はまず来ない。送付相手は季節外れのサンタの来訪を喜び、口にファスナーをしてしまう場合がほとんどである。逆の場合は、即刻送付相手から交換要請が来る。したがって、誤出庫による在庫不一致は、必ず高額品が不足するパターンだ。

 もちろん、倉庫業者側は荷主に対して弁済金を支払う事態となる。そこで倉庫業者側が保険を掛けていればいいが、担当者個人弁済などにしていると、偽装貼り替えによる帳尻合わせは起きる。

 そこでみなさんにお願いしたい。送付相手である我々小売店やレストランが、誤出庫によって高額品を入手してしまった場合も、こちらが正直に交換要請を出せば、それがかなりの金額差であっても、発送者側は交換経費を勘案しそのまま笑納してほしいと言ってくるものだ。この場合は適正な帳簿管理が行われ、偽装の芽は摘み取られる。季節外れのサンタの来訪は必ず発送元に連絡してほしい。

年号表示の肩ラベル全廃を

 いずれにせよ、こうした事情があるので、予備ラベルの保管運用は慎重の上にも慎重を期す必要があるのだ。とくに偽装貼り替えが容易な年号専用肩ラベルは、業界として使用不可とすべきものであると提案したい。ちなみにボルドー・ワインではまず年号専用肩ラベルを見かけることはない。

 また、前記の結露時の貼り付き汚損事故も、肩ラベルでは原則起きない。径が細くなっている肩口に貼られている肩ラベルは中仕切りとは接触しないから、湿ったとしてもすり切れることはない。結露に起因して肩ラベルに起きる事故は、形を保ったまま剥離する事故であり、つまり原則貼り替え用ラベルは不要である。

 破損・汚損ラベルの修復について書いてきたが、しかし最も重要なことは、やはりそもそも結露を起こさない管理のしくみ作りと励行であることは言うまでもない。

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About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。