ワインのリーファー輸送の実現によって、私たちは何を得たのか。3回にわたって確認している。最大の恩恵は、低温ダメージへの認識が深まったことだ。また、品物に問題が発見された場合に原因をつきとめやすくなったことも大きい。
最大の意識改革
また、“ワインのリーファー輸送”で得られた恩恵は、当初狙った“海上輸送時のダメージ解消”にも増して、海上輸送前後のマーシャリング・ヤード待機時や陸送時に、より大きなダメージ要因があることを教えてくれたことが大きい。
さらに、“ワインは低温によるダメージも受ける”ということが業界に周知され始めたことも、この方法を実践する中で起こったことだ。そして、ワインの貯蔵には通常の冷蔵倉庫では温度が低過ぎることが認識され始めた。これは、ワイン業界に“リーファー輸送”がもたらした“最大の意識改革”だったと私は思っている。
貯蔵温度15℃時代へ
東京のお台場にさまざまな施設がオープンしてにぎわう以前は、草が茂る埋立地にガス抜きパイプが散在し、その先端では狐火のように炎が揺らめいていた。
そんなころの青海埠頭近くに、三井倉庫が新倉庫を建設し始めたことがあった。その中にワイン専用フロアが作られることとなり、私もアドバイザーとして意見を求められた。まだ事務棟しか完成していない現地へ通ったものだ。
それ以前の日本のワイン業界の貯蔵温度は、私の記憶が正しければ「11℃派」と「9℃派」に分かれていた。そんな時代に私が提案した貯蔵温度は「18℃」で、はた目には正気の沙汰とは思えなかったに違いない。しかし、“ワインのリーファー輸送”実施の効果は大きかった。賛意や納得ではないとしても、小金井の酒屋の言うことに耳を傾けてくれるようになったのである。
三井倉庫は私の「18℃」の提案を受け容れ、理想倉庫は実現するかにみえた。しかし最後の最後で、フロアの大口利用契約者であるX社とY社が出した妥協案「15℃」が採用されてしまった。
その後、今でもワイン専用倉庫の設定温度は「15℃」が主流になっている。それでも「11℃派」「9℃派」を排除できたことには満足している。
ワイン専用倉庫の設定温度の主流が「15℃」となってから数年を経て、効果は明らかとなった。今日、コルク栓の内側に酒石酸カリウムの結晶がビッシリと付着してしまっているようなワインが激減していることを確認してほしい。
「18℃」のワイン専用倉庫が実現すれば、これはさらに減少するに違いない。この結晶物が付着すると、コルク栓は極端に弾性を失い、些細な温度変化でも外気流入の危険性を増幅させてしまうことを肝に銘じて欲しい。
危害要因と責任の明確化
また、海上輸送とその前後のダメージ誘発ポイントをつぶせたことで、問題が発生した場合に原因を解明するスピードがアップした。
1988年ころであっただろうか。日本リカーに依頼して取り寄せてもらった「グラーヴ」の白ワインが、全量白濁した状態で到着した。私はパスチャライゼーションの不良であろうと考え、日本リカーの親会社である兼松江商(現兼松)に交渉を依頼した。この結果、全量廃棄・全額蔵元負担で解決した。
兼松江商の担当者E氏は、蔵元が全責任を認めたことに驚いていた。ドライ・コンテナの時代にはなかった対応だということだった。
私にしてみればどちらも当たり前のこととしか思えない。本来的に、輸送方法が悪いために問題が発生した事案を蔵元の責任にするのは不条理であるし、輸送時に問題がないのであれば、発送時以前に問題があったことは自明である。
リーファー輸送を始める以前はどうであっただろうか。もし輸出業者が悪質であれば、買い手がドライ・コンテナで運ぶと聞き付ければ、オーダーと合致する手持ちのトラブル商品をすべて押し付けたに違いない。このような悪徳業者の餌食になってしまった輸入業者は、実際に相当数あったはずである。
あくまで噂ではあるが、“ワインのリーファー輸送”開始間もないころから、香港と米国のワイン業者が、劣化した手持ちの高級ワインを、日本の知識のない業者に破格値で売り付けていたと聞いたことがある。業界では名の通った米国人某氏関連企業が米国でストックしていたフランス・ワインも、同氏の旧知の友人を介して日本で処分されたといった噂も立った。
今日なお、ワインをリーファー輸送する国は日本以外にはあまりないと言う。すると、韓国や中国の輸入業者でドライ・コンテナを使っているところが餌食になっているのかも知れない。