ワインのリーファー輸送の実現によって、私たちは何を得たのか。3回にわたって確認している。今回は、ワインの市場対応力が増したことで、「ボジョレーヌーボー」の意味が変わったことを指摘する。また、この機会にワインの航空便輸送についてもいくつか提案する。
ボジョレーヌーボーの意味が変わった
しかし、年末需要期に状態のよいワインが潤沢に出回るようになることは、年に一度の“ノー・ダメージ・ワイン販売イベント”としてようやく成長を始めていた航空便輸送の「ボジョレー・ヌーヴォー」のマーケットを著しく害することとなってしまった。
結局、「ボジョレー・ヌーヴォー」マーケットの再活性化は、新世紀祝賀イベントを絡めた2001年からのこととなってしまった。このときの主導権は、中小ワイン輸入業者から大手酒類企業に奪い去られている。
ところが、この再活性化は2011年現在、急速にしぼんでしまっている。解禁日から2~3日で販売が終了してしまうのだ。なぜか? 答えは意外と簡単な話と思われる。
燃油サーチャージが加算され、引き上げられもしている航空運賃がかかり、しかも“輸送荒れ”からも回復していない未完成型ワインの「ボジョレー・ヌーヴォー」と、リーファー・コンテナで海上輸送され、“輸送荒れ”からも回復している、リーズナブルな完成型ワインのどちらが選ばれるだろうか?
さらに最近は、温暖化のために極端に早い時期に収穫する年がある。そうした年には、「ボジョレー・ヌーヴォー」の法定出荷日までに完成型ワイン「ボジョレー」と呼ぶべき香味になっている場合も多い。量を飲み過ぎると腰を取られて歩行がおぼつかなくなる――危険だが心浮き立つ新酒独特の“危ない酔い”を風物詩として楽しめないのなら、「ボジョレー・ヌーヴォー」など飲む必要もないと私は思っている。
航空便はボトルの向きと気圧に注意
ついでながら、航空便輸送ワインについて提案しておきたいことがある。
航空便輸送がワインに与える最大のメリットは、前後の陸送期間も含めて、短日数で販売の現場まで到着が可能なことだ。
だから、航空便であれば天然コルク栓を使用しているボトルでもコルク栓が乾燥・萎縮する心配はない。ならば、むだな“輸送荒れ”を回避するために、輸送中はボトルが立った状態を維持してほしいのだ。
ボトルを寝かせた状態では、ワインと空気の境界面の面積がより広くなり、ボトルの中でワインが暴れやすく、液体の水平方向の移動距離もボトルの長さと等しく長くなる。立てた状態であれば、ワインと空気の境界面はボトルネックの直径だけの小さなものであり、はるかに暴れにくい。
このボトルの扱いによる品質の差については、別項で詳述することにしたい。
また、旅客機の客室の環境は、通常18℃・0.8気圧であるが(温度は15℃~20℃などと表示されている)、貨物室は客室と同等かあるいは温度・気圧とも客室より低い場合が多い。いずれにせよ、地上の気圧よりも低くなるのだが、気圧変化による液体の膨張・収縮は、温度変化による膨張・収縮とほぼ同等のダメージ要因となる。
しかし、コックピット下方には、機種によって18℃・1気圧の貨物室がある。「ボジョレー・ヌーヴォー」ではなく高額なワインを航空便輸送する場合には、この場所への積載を指定してほしいものだ。