ワインのリーファー輸送の実現によって、私たちは何を得たのか。3回にわたって確認していく。最初に取り上げる恩恵は、市場への対応力が増したことだ。
幸せな12月の実現
思うに“ワインのリーファー輸送”がもたらした最大の効果は、夏でも原産地から出荷できることとなり、日本のワイン最需要期である年末期に、“輸送荒れ”を解消したワインが市場に提供できるようになったことだ。
ドライ・コンテナを使って、シーズン輸送・船内指定積み付け(夏場除外)でヨーロッパからワインを運ぶ場合、安全策を取れば6月上旬までに日本へ到着させるか、あるいは9月末以降の産地発送とならざるを得ない。25年前当時では、日本陸揚げまで約30日を要した。しかし2011年の現在は、日本陸揚げまで約40~45日を見なければならない。コンテナ船の大型化とアジア各国の経済発展が、欧日間航路の途中寄港地を増加させたからだ。
さらに、現在では極東アジアの拠点物流港(ハブ港)は、もはや日本の東京港でも神戸港でもない。中国の上海港か杭州洋山深水港、あるいはシンガポールや韓国仁川広域市である。
ちなみに余談だが、2010年11月、北朝鮮の朝鮮人民軍が韓国の延坪島を砲撃し、民間人を含む死傷者を出した。また今年8月にも、同軍は延坪島付近の黄海に向けて砲撃を行っている。この島は仁川広域市に隣接する島である。極東ハブ港争いが激化する中では、中国側には何とも都合のよい事件である。
さて、これらのバブ港の埠頭内マーシャリング・ヤードでは、船便積み替え作業のためにさらに2~3泊、繁忙期であれば1週間を要するかもしれない。
そして、通関および諸処理期間や、国内での配送時間を考慮して、さらに5~7日を加える。
こう考えると、順調な到着であっても年末需要期までの猶予期間は1カ月あるかないかとなる。しかも港湾業務繁忙期の到着であり、順調を期待するのは愚かである。50日越えの所要日数となっている可能性は高い。
この方法で運ばれ、複数の港の埠頭内マーシャリング・ヤードに数日間ずつ放置されたワインなど、私は仕入れる気にも飲む気にもなれない。
気付いている業界人は少ない
リーファー・コンテナを使えば、9月末より以前に発送することが可能になる。しかも、50日間に起こるさまざまな試練を心配しなくてもすむ。かくして、年末期に輸送荒れの治まった質のよいワインをたっぷりと供給できるのだ。
しかし、この素晴らしい“年末効果”を実感してくれている業界人がどれほど存在するかと言えば、数えるほどにしかいないだろう。無償で与えられた幸運は目に映るものではなく、それに感謝することもない。提案した私ですら、リーファー輸送を始めた後で気付いた効果なのだから。