ワイン輸送にリーファー・コンテナを使い始めて間もなく、冬と夏の二つの事件・報告から、リーファーの必要性が再確認された。しかも、その強みは海上輸送だけでなく、陸上輸送でも発揮されるべきものだとわかった。
高温、低温の両方ともダメージの要因
温度によってワインが受けるダメージには、高温化要因によるものだけでなく、低温化要因によるものもある。私がかねてそのことを問題視していたことは、これまでに述べてきた通りだ(時間がない方も、連載第9回をお読みいただければ、要点はつかんでいただけると思う)。
私がそもそもワインのリーファー輸送を提案したのも、高温だけでなく低温も避ける方法としてだった。ところが、当時のワイン業界にこのことに配慮する空気は全くと言っていいほどなかった。さらに今日においてさえ、ボトルに「このワインは低温コンテナで輸送されたワインです」と書いてしまう会社があるほど、低温がワインにダメージを与えるという認識がない人は少なくない。
大寒波で認識されたリーファーの強み
そうした中、私の低温ダメージへの“懸念”は1987年冬には“現実”として認識されることとなった。
この年、ヨーロッパを強い寒波が襲ったが、このときフランス・ワインの主要積み出し港であるルアーブルから、マーシャリング・ヤード駐機中のリーファー・コンテナのワインは難を逃れたと報告が入ったのである。リーファー・コンテナは加温機能もあり、これで助かった。
もしもこのときドライ・コンテナを使用していたらどうなっていたか。これまでにも指摘したとおり、ワインは低温にさらされれば成分結晶と外気吸引を起こして劣化するし、低温で収縮したワインは暖かな貯蔵庫に移されたときに膨張して口漏れを起こして商品価値を失う。ましてや、北緯50度に近いルアーブル港の遮蔽物のないマーシャリング・ヤードで氷点下の風雪にさらされれば、ワインは劣化どころか凍結し、ビンは破損してしまう。
ドライ・コンテナであれば、このときの強い寒波による被害は100%回避不能だった。これは、提案当初、私の言う“低温ダメージへの懸念”を軽視するワイン輸入業者に認識を改めてもらうよい機会となった。
溶けたスキーワックス
私の品質管理の師、山岡寿夫氏が「マーシャリング・ヤードでの放置時間を最低限にすることが重要」と指摘していた通り(連載第7回参照)、マーシャリング・ヤードでワインに何が起こるかはあなどれない。ちょうどこのころ、それを数字で裏付けるデータがもたらされた。子会社にワイン輸入会社を有するスポーツ用品メーカーA社による貴重な資料だった。
同社がフランスへ輸出したレース用スキーワックスが、コンテナを開けてみると使いものにならない代物に化けていたという事故があった。コンテナに積み込んで出荷後に高温にさらされ、融解して分離し、再結晶していたのだ。資料は、このクレームに対応した調査結果だった。
それによると、(グラフ参照)7月の大井埠頭マーシャリング・ヤードで、スキーワックスを積んだドライ・コンテナ内の温度は最高40℃に達していた。航海中はそれよりはるかに低い温度で推移し、8月にフランス、ルアーブル港マーシャリング・ヤード陸揚げ直後には、温度計は21℃を差していた。温度計は実はこの時点で壊れてしまったのだが、同時に記録を取っていた湿度計は、大井埠頭でと同様の動きを見せている。そして、コンテナ開封時には50℃近くの庫内温度に達していたという報告が添えられていた。
“定温”チェーンが必要
この二つの話からわかるのは、注意すべきは海上輸送の段階だけではないということだ。夏・冬とも、マーシャリング・ヤードでの駐機中はもちろん、当然陸送時にも定温を保つ必要がある。つまり、ワイン生産者の倉庫からリーファー・コンテナに積み込み、製造拠点を起点とした“定温のチェーン”(冷蔵・冷凍品を対象に発達したこのしくみは、日本では一般にコールドチェーンと呼ばれている)と言える輸送体系が必要であるし、当然のことながら、日本国内とくにワインの陸揚げの大半が行われる東京、横浜から各地への輸送にも、同様かそれ以上の配慮が必要だということが確認された。