水産物のブランド化で有名なものに「関さば」「関あじ」がある。その後、地域ブランドのための法整備(2006年の商標法改正による地域団体商標制度)などもあり、これにならった動きは2004年頃までに大ブームを起こした。当時で150種類を超える水産物が、各地の自治体や漁業協同組合により、地域ブランドとして地域団体商標の登録がされた。
産地と品質を保証して高価格戦略取る
ブランド化された地域の水産物は多彩だ。魚なら、マグロ、ハマチ、ワラサ、ブリ、ハタハタ、サケ、フグなど。ほかにも、イカ、タコ、エビ、カニ、サザエ、カキ、アワビ等、多くの魚貝類が登録されている。これは今後も増えて行くだろう。
食品の地域ブランド化については、全国的に統一された登録のための要件や基準などはないようだが、一般的には特別な付加価値があるかや品質管理基準があるかなどが、かなり厳格にチェックされるようだ。水産物については、たとえば漁獲の方法、養殖の方法、しめ方、鮮度の管理、出荷の方法、販売チャネル、また生産量、栄養などの成分、美しさ等が吟味されることが多いようだ。
出荷に当たって、関係する漁協が管理シールを1尾ごとに張り付けることはもちろん、最近ではICタグをつけて漁獲から流通の履歴を取り、詳細な品質管理を一元的に管理するシステムも行われている。鮮魚にもトレーサビリティが確立されてきている。こうした仕組みで産地と品質を保証し、ブランド化し、高価格戦略が取られるようになっている。
長崎のイベントで行った魚釣り
さて、アジについて、私の経験のお話をしたい。
アジは、世界的には140種ほどがあり、日本近海で漁獲されるアジのほとんどはマアジだという。マアジは、青物の魚でよく言われるようにDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれ、カルシウムや、ビタミンB2なども多く栄養的にも評価される魚だ。機能性だけではない。新井白石は「アヂとは味成り。その味の美をいふなり」と書いたという。「味が良いからアジ」となったというわけだ。そんないいことづくめでありながら、一般に手に入りやすい大衆魚であることが、またありがたい。
ところで私は、ハーレーダビッドソンジャパン社長時代から長崎に縁がある。同社では、ファンや社会のための集いと、販促のための催しと、大まかに分けて2通りのイベントを多数行ってきた。毎年秋、長崎市の中心部に当たる松ヶ枝埠頭、水辺の森公園で行ってきた「長崎ハーレーフェスティバル」は、その前者に当たる。
長崎市在住のあるハーレー・オーナーの方の尽力によって実現したもので、主催者は長崎市、ハーレーダビッドソンジャパンが共催するという、この種のイベントとしては異色のものだ。全国から集まるハーレー・オーナーと、長崎市民の方と、いっしょに楽しめる内容で、市民の方々には随分となじみ深いイベントに育っている。最盛期の2008年には参加者が4万2000名にもなった。
イベントでは、オートバイに関するものだけでなく、オートバイに乗らない人や子供たちにも喜んでもらえる企画を多数用意した。もちろん、長崎色をしっかり出す工夫も行ってきた。その一つとして人気を博したのが、“魚釣り”だった。公園の中に大きなビニール製のプールを設置して魚を放し、来場した方々に釣ってもらったのだ。
長崎県は漁業に適した土地としても知られている。海岸線が長く、複雑にいりくんだ地形であり、実際に全国でも有数の漁獲量を誇る。たとえばフグの漁獲高は有名な山口県を上回って全国第1位だし、その他にも、サバ、マアジ、ムロアジ、イサキ、ブリ、サワラ、ヒジキ、サザエ等がいずれも全国1位の漁獲高だ。また、マダイ、トビウオ、エイ、アマダイ、キダイ等でも全国で2番目の漁獲量になっている。
このうちマアジでは、長崎県は3つもの地域ブランドを持っている。「ごんあじ」(新三重漁協)、「のもんあじ」(野母崎三和漁協)、「ときあじ」(日本海洋旋網漁協)が、地域団体商標の登録をしているのだ。
ビニールプールを泳ぐ高級魚?
ある年、私はそうした名産があることを知り、それをイベントの釣りで提供しようと思い付いた。今思えばぞっとする思い出だが、私は「今年はごんあじを入れましょうよ」と気軽に提案してしまったのだ。
釣りゲームにも、毎年変化を付けたかったし、できれば日頃あまり食卓には上がらないような魚も入れたかった。一方、大分の「関あじ」などは全国区の知名度だが、長崎の「ごんあじ」はそれに伍するほどではないというのが、長崎贔屓としてはくやしい気持ちもあった。それで、「ごんあじの宣伝も兼ねて」と、脳天気にも言い出してしまったというわけだ。
アジと言えば、当時私が知っていたものはあくまでスーパーや各地の水産品の土産店で売られているものであり、したがって少し高くともせいぜい1尾500~600円くらいのものという頭があった。それに、ビニールプールでの釣りに使うのなら小さくてもよいし、1尾300円も出せはいいだろうと思っていたのだ。
ところが、冗談ではなかった。長崎市のある方が「奥井さん、『ごんあじ』というのはそんなアジではなくて、1尾5000円(当時)はするのだよ」と教えてくれた。それではとても予算内に収まるものではなく、アジと言ってもたいへんな高級魚であることを知った。
そうして恥をかいた経験が忘れられないわけだが、それ以来、ブランド魚について関心を持つようにもなった。しかし、それをきっかけに調べてみると、せっかく地域団体商標の登録もしてブランド魚になったものでも、多くはあまり全国的に有名になったものはないようだ。宣伝・広報が不十分だったり、うまくなかったりするのだろうが、これは惜しいことだ。
ちなみに、最初に地域団体商標に登録された水産物は「関さば」「関あじ」だと聞く。この2つは、いまだにマスコミがブランド魚を取り上げる場合の必須アイテムであり、先駆者利益を独占している感がある。
「ごんあじ」よ、がんばれ!