コンビニエンスストアのこれから(4)末端の現場に見える崩壊の兆し

コンビニエンスストアに関する問題点
コンビニエンスストアに関する問題点

コンビニエンスストアに関する問題点
コンビニエンスストアに関する問題点

コンビニエンスストアの現場の業務は複雑化し、多忙を極めている。また深夜営業時間帯の安全確保も重要な課題だ。これらは、パート・アルバイトの応募、定着を阻害する一方、フランチャイジーのコストアップにもつながっている。これらを放置すれば、システム全体の崩壊を招き得る。早期に、全く新しい稼げるモデルを打ち出す必要がある。

フランチャイジーの雇用確保難

 これまでに述べてきた問題の大きな部分は、仮にフランチャイジー(以下FCジー)それぞれが有能な社員を常時確保できるならば、大きく状況は違ってくる。しかし、現実はそう簡単に言い切れるものではない。P/A確保そのものが困難になりつつあるからだ。

 コンビニエンスストア(以下CVS)のFCジー=オーナー家族以外の従業員は基本的には非正規雇用であり、多くはパート・アルバイト(以下P/A)が占めている。

 そして、フランチャイザー(以下FCザー)が店に課すノルマの達成なり要求の履行なりは、P/Aにも強く求められることになる。しかも、CVSの取扱商品やレジ回りで扱う各種のサービスは年々増加し、業務は複雑化し、忙しさもいや増している。

 一方、深夜時間勤務も実態は1人でこなすことも多くなっていて、スタッフの安全の確保が現実に重要な課題として大きくなってきている。

 本部のキャンペーンに合わせた変則労働時間の発生やノルマ達成の重圧なども加わる。これは、FCジーの一層の収益悪化につながるとともに、より根本的には、店舗における非正規社員の雇用実現自体の困難さが増している。P/Aを確保できなければ、経営者自身が長時間にわたる重労働をしなければならないと言う深刻な状況にもつながる。

 これも落とし穴だ。一般に小規模事業の場合、経営者自身が身を粉にして働く人が多い。これが半面では、P/Aであっても自身と同様に粉骨砕身して働いて当然と考えてしまうことにもつながってしまう。その上、人事の管理は旧態依然えあるために、経営者とP/Aとの間の感情的軋轢も生みがちだ。このために、せっかく確保した雇用者の早期退職につながるケースも多い。

 雇用確保難が経営者を窮地に追いやり、それがまた雇用確保難につながっていく負のスパイラルだ。それは、現場が活性化できないことにつながり、気持ちの上でも、また実際の金銭面でも、余裕のなさが深刻となり、職場のモチベーションを著しく低下させるという、もう一つの負のスパイラルも生んでいる。

 前述した店頭業務の複雑化は、雇い主=FCジーにとっての経費の発生も意味する。最近のCVSでの仕事はあまりに複雑で、新参のP/Aではこなしきれなくもなっている。本部が行う研修を受けさせなければ業務をこなせないことが多いのだ。そのための人件費はFCジーが追うことになる。そして、せっかくコストをかけて研修させても、そのP/Aがいつまで勤務してくれるかは神のみぞ知るのだ。

 また、やはり前述のように、P/Aと店の安全確保のための追加経費の発生も避けられない。

 FCジーがよい人材を確保する難しさが増す一方で、1人の人員を雇って稼働させるために要する経費が増えていると言う難しい局面にFCジーとしては立たされているのである。換言すれば、職場自体の再生産・新規拡大生産が困難になりつつあると言える。

必要なのは全く新しいビジネスの形

 このように外部の者の目で眺めると、CVS業界としては表面では成長を続けながらも、末端の現場は崩壊の危機を迎えつつあるようにも危惧される。

 実は、同様のことはオートバイ販売店にも共通して見られたのである。

 後継者がいるオートバイ販売店の数というものは、はっきりとした統計はなかったが、せいぜい15%であろうという推測がされていた。

 ハーレーダビッドソンジャパン(以下HDJ)では、このような事態に対して、オートバイという物体を売るのではなく、オートバイそのものも含めたライフスタイルを売る“コト売り”の展開にシフトした。それによって、脱価格競争を図り、顧客価値を売る仕事への転換を進めたのだ。

 これは業界としては全く新しいモデルだったが、結果として販売店の収益性、後継者、IT社会対応等の諸問題を他社に比べて圧倒的によい方向で解決することとなった。

 そこで考えるのだが、CVS業界でも、既存店に対しても再度発展を実現し得るような革新的なビジネスモデルの開発が必要になっているのではないか。もちろん巨大はFCザーとしてすでに十分承知し、検討も進んでいるとは思うが、やはり“過去の成功モデル”を変化させることはまだまだ必要ではないだろうか。

 CVSのFCザー、FCジー両当事者にとって“なすべきこと”は至るところにある、“問うべきこと”は、市場のよし悪しではない。自己の変革だ。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/