企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。さまざまなチェーンを見てきた結果、どのチェーン、どの業態でも、低価格競争の渦に飲み込まれていることが悩みの一つとわかった。次回から外食産業について論ずるが、その前に、価格競争から脱出する10の方法を提示しておく。
デフレ志向の集客努力を断ち切る
これまでもしばしば述べてきたとおり、現在、あらゆる業種・業態で値引き競争ないしは低価格実現志向型業態へのシフトが起こり、激化の一途をたどっている。集客のためにさまざまに知恵を絞ってはいるが、ほとんどの場合、誰にでも伝わりやすく、他社・他店と比較しやすい低価格路線を選び、結果として価格競争に巻き込まれ、その渦からから脱出することができない――これが今日のビジネスのすう勢だ。
では、そこから抜け出す方法はないのかというと、そんなことはない。しかも、それは特別に変わった方法ではなく、考えてみれば当たり前のことを地道に、確実に、一貫継続して実践することにほかならない。ここでも“凡事の非凡な徹底”が必要なわけだ。
“ウルトラC”はない
その凡事を列挙してみる。チェーンや店舗ごとの具体的な方策はもちろんケース・バイ・ケースだが、ここでは主要な項目をまとめる(チャート参照)。
1. 強力な「ブランド」の構築
ブランドは、価格以外の軸で商品の価値を感じ取らせる。また、むしろ高価であること自体が価値と受け取られる場合もある。
2. 高質な「販売環境の整備」
売場を物品と貨幣を交換するだけの場とせず、訪店することや商品を選んで購買する体験自体に価値を持たせる。
3. 「顧客視点経営の実践」「顧客視点に基づく凡事の非凡な徹底」
顧客の立場に立ったとき、どのようなことが意外であったり価値があると思われるかに注意を向ける。したがって、「顧客視点を持つ」ということは、顧客と同じ見方や考え方をすることとは違う。
4. 「価格で売らずに価値で売る」考え方の理解・意識の変革と実践
そもそも売り手自身が自社・自店の商品を、他社や市況との比較で価格の高低を考えてしまう呪縛にとらわれている。全く異なる価値観を職場に浸透させる必要がある。
5. “モノ”で売らずに“コト”で売る――コト売りマーケティングの実践
2.の視点を顧客のライフスタイルまで延長して考える。つまり、商品自体の価値を超えて、その商品がある生活や生き方を楽しむことを念頭に販売する。そのアイデアは、販売者と顧客双方から提出され、共有されていく。
6. 「学ぶが真似ず」・「他社との比較からものを考えない」独自性
他社の事業や製品を学ぶことは大切だ。しかし、それを真似たり、裏をかいたりするための学びでは自社の価値を損なう。たとえば、他社に実現できていないことを学び取ることが大切だ。
7. 「顧客」「販売店」「メーカー」3者の絆の形成
顧客、販売店(ショップ・ストア・販売店など)、メーカー(サプライヤー)は、従来それぞれに対立するものと考えられてきた。互いに「高く売りたい」「安く買いたい」「コストをかけたくない」「コストをかけてほしい」と考える間柄だったからだ。しかし、強いブランドと、体験を重視したコト売りを実現するしくみの中では3者で価値観を共有し、共栄する間柄となる。したがって、3者間の“Win-Win-Winの関係”となる。日本語でわかりやすく言えば、3者間で絆を育むのだ。
8. アフターセールスサービス(A/S)の充実。長期に及ぶ人間関係の構築
売りっぱなしで二度と顔を合わせないのでは絆は生まれない。顧客と長期にわたって顔を合わせ、交流を続けるしくみを作ることが大切だ。それには充実したアフターセールスサービスが有効であるし、外食のように食べて消えるものであればリピートや店に関心を持つきっかけ作りが必要だ。もちろん、それ自体も収益をもたらす。
9. 徹底的な新規需要の開拓努力
確立した自社製品の価値を、既存顧客以外の人々の価値とすることを考える。そのためには、新しい顧客のどのような需要にどのように応えられるかを考え、的確に伝えることだ。新しい顧客のために自社製品の価値を変えて新規商品を作ることとは違う。
10. 成長実現のために必要と考える「M&Aなどの経営手法の実行」
以上のために必要な資源がなければ外部から導入することを考える。あるいは不要となる資源は売却することを考える。
これらは非常に重要なテーマであるので、今回は項目を提示することに留め、後日、章を改めて詳しく述べることにする。
さて、以上を踏まえて、次回からはいよいよ外食チェーンが抱える問題点について論じていく。