2013年になった今現在、「グルコサミン」「コエンザイムQ10」「オリゴ糖」「DHA」「EPA」などなどのワードを聞いても、違和感覚える方は少ないと思います。
でも……みなさん、ちょっと自分の10年前を思い出してください。今年30歳になる方は「ああ若かったなぁ」、40歳に到達するよという方も「ああ若かったなあ」、50歳になるーという方も、はたまた今年20歳になる方も、「ああ若かったなぁ」とお思いでしょうが……それはさておき。上記の“健康成分”のナ・マ・エ、あの若かったときご存知でした? きっと多くの方、知らなかったのでは?
思い返してみると、ちょうどこの10年前あたりを転換点に、次々と新しい“健康成分”の名称が広まっていったようなのです。何の力によるものかというと、他ならぬ、健康情報番組。当時は隆盛をきわめておりました~。
「“誰もがわかる”が鉄則なのにフコイダンてナニソレ、と」
自分は当時、ノーギャラ構成作家の駆け出し段階から半歩ほど抜け出せそうかなぁというときで、とっても人気があった健康情報番組の末端でこまごまと働いておりました。
その健康番組は週1回の放送で、毎回テーマを決めて→それを検証→新パワーを発掘! という構成(人気を博しながら、最後はやらせだうんぬんと騒がれた番組デス。……ま、やらせは本当にスタッフだった自分も知らなかったのですが、大体ちゃんと検証してましたよ。とそれはさておき……)。
それにかかわっておったある日、軽い衝撃を受けたのが、ある日決まった“番組テーマ……「○月○日のテーマは『フコイダン』」という上からのお達し。「えぇ!? フコイダンなんて一部の人しか知らないワードが、一時間番組のテーマ!?」と、若かりし構成作家は思ったわけでした。時2002年。10年前のことでございます(あ、年明けたんですネ。だいたい10年前のことでございます)。
「思えば、あのとき健康番組は新段階に入ったんです」
このビックリ度合いはちょっと補足がいると思います。テレビ番組って、視聴率を取らないと終わる宿命にあるゆえに、「子供からお年寄りまで、誰が聞いても知っている、興味持つ」という言葉しか使っちゃならんというのが鉄則なんです。見ている人が「ん? 何それ?」という言葉を使うとチャンネルを変える人が出てくるという理屈です。それはナレーションの単語一つにしてもそうで、「わかりやすく、カンタンに」とは口酸っぱく言われてきました。
だからその番組でも、それまでのテーマは「ごはん」とか「お茶」とか、まさに老若男女誰が聞いてもわかる言葉、とくに主婦層になじみ深い言葉を持ってきていたんです。
なのに! 多くの人が「?」な“フコイダン”がテーマって正気かい! という感じでしたね。ましてやファミリーが見る日曜日のゴールデンタイムの番組でしたし。
一応補足しておきますと、フコイダンは「昆布などに含まれる食物繊維の一種」です。まぁ、この「フコイダン」がテーマとして来る前段階では、番組でも「血圧をコントロールするのによいと言われているのが昆布。そこにはフコイダンという成分が……」など、さまざまなテーマのときにフコイダンというワード自体が登場していたということはあります。
だけど「フコイダンで1時間作る日曜ゴールデンタイムの番組!?」というのは驚きでした。他局・他時間帯の番組を見ても、私が知る限りではフコイダンをテーマにした番組は見当たりませんでした。
今思えば、あのときに、健康をテーマに扱うテレビ番組は従来とは違う新しい段階に入ったのかなぁと思います。
「“進んでいる人にはもはや常識”と演出すればよいのだと」
で、その「フコイダン」がテーマの回がどうだったかというと、まぁとくに視聴率が落ちることもなく、(大成功ということでもなかったらしいものの)堅調な視聴率をたたき出しました。テーマ的にバクチの側面を持ちながら、人気を落とすこともなかったゆえ、番組的には成功だったんです。
その回前後から番組会議でよく言われるようになったのが、フコイダンに代表される“新ワード”を「一部の人しか知らない」という切り口ではなく、「『美容や健康に敏感な人にはすでに知られている』という切り口でとらえる」ということでした。なるほどなぁ~と思いましたね。具体的に言うと「これ知っている人少ないんだけど……」と語るよりも、「若く見える人にとっては、この成分、常識です! え、もしかしてあなた知らない? じゃあそんな人のために、今日はお届けしましょう」と語っていった方が興味を引きますよね。
テレビは流行を売り物にしている面がありますから、昔からの王道の手段ではあると言えますが、ご年配にも見えるプロデューサーの方のノウハウに、若者であった筆者は感服したわけでありました。ま、テレビって流行をしかけようとして流行にならないことを繰り返してもいますがね(最近はもう見透かされてとくにダメですけど)。
少し脇道にそれましたけど、自分の中ではこのフコイダンの回以後、テレビもムズカシイ“健康成分”を使うことに「視聴率が下がるかも……」と恐れることがなくなり、バンバンバンバン登場していくようになったと感じています。今日、いろんな名前の“健康成分”を冠したサプリが違和感なく受け入れられる下地は、この頃から作られていったのかなぁと思いますねぇ。