節操がないようで毅然としている医学博士の方々

前回は「スポンサーがライバル社の番組に作りをパクれと指令」のもとに、ライバル社の製品で同じ専門家が解説していた事例をあげました。実はそうでなくても、健康食品の通販番組に登場する医学博士などの専門家、同じ人があっちの商品にもこっちの商品にも登場しがちな事情があります。

「専門家は出尽くしてますよ、もう」

「この先生、違う商品にも出てたけど……」になっちゃったその理由とは?

 その事情は大きく2つあります。まず1つ目のパターンは「権威を捜すと、どうしてもその専門家の知名度がナンバーワンだから」というものです。番組を構成していくに当たり、専門家に依頼をするなら、無名の人より有名人、ということを求めがちになります。となると、結果的に「あの人しかいない」と同じ人に行き着いてしまうことがよくあるんですね。食物繊維ならこの人、腸内環境のことならこの人、カルシウムならこの人、みたいな。

 今「この人」とあたかも一人のような表現をしましたが、実際には「これらの人」、という感じで数人の候補者が挙がります。ですがその数人……たとえば4人いるとすると「Aさんはこの商品、Bさんはこの商品、Cさんはこの商品ですでに出演済み。Dさんは健康食品の番組には出ないそう」ということになるんです。じゃあA、B、Cさんのどなたかから選ぶか……といった具合なのですね。それほどに健康食品の通販番組は、医学博士と専門家をあらかた開拓し切っています。

「言ってほしいことを言ってくれる先生がいるんですよ」

 そして、違う商品の通販番組でも同じ専門家が登場しがちな理由のもう1パターン。これは業界のスタッフのみぞ知ることなのですが、「□□先生は、言ってほしいこと何でもだいたい言ってくれるから」というもの! これ、誤解のないように言っておきますが、「ウソでも言ってくれる」ということではなく、テレビ慣れしていて、テレビ用のコメントへのストライクゾーンが広いということです。

 たとえばですね、言ってみればどんな食べ物の成分でも、何らかの“効能”みたいなものはあるんです。で、このテレビ慣れしている先生は「フムフム、この成分がいいということを言いたいワケね。えーと、客観的事実として何も問題なく言えるのは、AということとBということ。で、そうではないという学説もあるけれど、有力なメリットで言えるのはCということ。さらに、少数派だけど、Dということによいと言う学説もあります。どれを言いますか?」みたいな感じ。

 つまり、テレビで「言えるか言えないか」のYES・NOでなく「ここまでなら言えるよ」ということを提案してくれる人です。正直、健康食品の通販番組、あるいは一般の健康情報番組が長いディレクターさんは、そうした先生の候補を数人持っています。そして、そうした健康ネタの話が来たとき、イチからまた新しい先鋭を探して打ち合わせをしてというのはメンドウクサイし、たいへんなんです。謝礼金のレベルもわかりませんしね。

 となると、「前に取材を頼んでスムーズだったあの先生にまた頼もう」ということになる。結果、いろんな商品で同じ先生が出てくるわけですね。

「医学博士の良心に触れたことがあるんですよ」

 ここまで書くと、いろいろ理由はつけても、「日本のどこかの医学博士という人は、効果効能がない成分もよいものとコメントしてしまうのではないか?」という懸念があると思います。自分も以前、「コレ、いいって言えない成分なんてないんじゃないの!?」と思ったこともありました。

 ですが、その不安のようなものをやわらげることもありました。

 コレは放送に至らなかったのですが、外国で民間療法的に使われているある成分をメインにしたサプリを通販にしたい、という話が、知人の制作会社に寄せられました。で、その成分は日本のクスリにはないし、公的に効能を示した資料もない。そこで、放送を許可する考査がゆるいと言われる、とあるローカル局に打診したところ、その局も「さすがに何も根拠がないでは責任が持てない。せめて医学博士にでもその根拠を示してもらってくれ」ということになったんです。

 で、スタッフがあらゆる医学博士という肩書きをお持ちの方で、少しでも引っかかりそうな人をピックアップ、「健康によいと考えられますね」くらいの一言をもらうことが可能かと当たったのですが、最終的にはそういう方が見つからなかったんです。だいたい、「その成分がよいという説もあるよね。でも反面こういうマイナスも言われてて、その両方を伝えないと、私の見解として放送を認めることはできない」と、このレベルどまりだったんです。

 スタッフは結構スミズミまで当たっていましたが、見つからず。このことは自分にとっては、医学博士の方々の良心に触れたように思い、非常にホッとしましたねぇ。

 しばしばこうした“怪しいかもしれない”商品の打診も、通販を制作している会社には舞い込みます。しかし、放送するエリアが広い通販番組ほど、何でもかんでもオカネさえくれれば放送するよ、とはならないですね。とくに口に入れる食品はシビアです。

 ただマシン系はゆるいですからネ。と言うのも、「エクササイズが楽しいマシン」というところには規制もほぼないですから。つまり、健康とか何も触れず、娯楽の一つとしてうたっている商品、ですね。

 まあ、そんな雑多なことも取り込みつつ、通販業界は朝も夜も、あちこちで新商品が生まれ続けているといったところでしょうか!

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About 森畑たけし 65 Articles
通販番組制作担当者 もりはた・たけし 1975年生まれ。通常のテレビ番組と通販番組を手がけて12年。ひと昔前、一段下に見られていた感のある通販番組とその市場の成長に驚くばかり。同時に「やっててよかった~」とありがたい食い扶持があることにホッ……。しかし、膨大なグルメ情報、健康情報、お得情報などを発信し続けていながら、本人は全く活用できていない。自分が通販アイテムを買って続けるなら髪関係だろうかと、毛根と〆切が気になる人。