中国の料理店で提供される食器一式について説明しよう。平皿、小鉢、コップ類2個、箸、レンゲなどである。テーブルの上には他にティッシュや楊枝があり、茶や湯を入れたやかんやポットが備わる。足もとにはゴミ捨てがある。
食器を使う前の“儀式”
高級料理店の場合、客席は個室になり、テーブルは円卓である。その上に回転テーブルがある。卓上には、上記の他に調味料用の小皿、箸置きが加わることがある。このレベルより下ではテーブルは四角で、回転テーブルはない。
食器の材質はピンキリである。通常レベル以上であれば、再利用可能な陶器や硬質プラスティックが一般的だ。それ以下では、使い捨てであり、プラスティックや紙製になる。また、シュリンクフィルムにより全体がパックされていることもある。
コップが2つ付くが、一つには茶などを注ぎ、もう一つは酒類用である。酒類を好まない場合、ここにも茶を満たす。
さて、上記の食器に関して、使い捨てではない場合は使用前に行う儀式がある。熱い茶や湯により、食器一式を消毒するのだ。提供される食器が信頼できないのである。平皿の上に小鉢を重ね、その中にコップを置く。そこへ、箸を伝わらせて熱い茶や湯を注ぐ。平皿に溜まった茶や湯は、こぼさないようにゴミ捨てに捨てる。
ゴミ捨てにはビニール袋が収まっているため、液体の廃棄も全く問題ない。食器の消毒効果は明確とは言えないため、儀式と記した。そのことは中国の人もわかっているのだが、そうであってもやらないと不安なのだろう。貝殻など食べられないものは平皿に保留するが、溜まれば同様にゴミ捨てに廃棄する。
箸は皿に置いてよい。ただし縦置き
個室の場合、入口から遠い位置が主賓席になるのは日本と同じである。
中国料理は大皿で提供される。当然だが、主賓が存在する場合は主賓が率先して取り分ける。それ以外では、各自が大皿から平皿に取分ける。大皿から取って直接口に運ぶ場合もあるが、マナー違反ではないようだ。スープ類は小鉢に取り分け、レンゲで口に運ぶ。ただし、小鉢を持上げるのはマナー違反である。茶器と飯椀に限り、持上げることが許される。
箸は平皿の上に置くことが一般的である。箸置きがあれば利用するが、いずれも置く方向は縦である。これは合理的である。右利きより少数であっても、左利きの人が存在するからだ。縦置きであれば、どちらでも問題ない。
日本へは5〜6世紀に仏教とともに伝来したという説が有力である。当時は中国でも横置きであったが、宋(960〜1279年)から元(1271〜1635年)の時代に縦置きが定着したらしい。食事にナイフを使う北方の騎馬民族の影響という説がある。
なお、箸の先端を分離できる組み立て箸もある。
こぼれた料理などを拭きとる際に用いられるのが、ティッシュである。ちなみに、中国ではトイレの後で手を拭くのもこの種のティッシュだ。日本人が持参するハンカチは中国では見かけない。
中国のトイレには使い捨てのティッシュが備わることが多いが、ないこともある。そのような場合、筆者はやむなくポケットからハンカチを取り出すのだが、中国でハンカチを使っていると、奇異の目で見られてしまう。
では、中国の人(特に男性)がティッシュを持っていない場合にどうするか。ご想像の通りである。ズボンで拭くのである。