アメリカ穀物協会(USGC。トーマス・C・ドール会長)は、今後2040年までの東アジアの食と農業の動向について調査し、4月18日「FOOD 2040――Infinite Opportunities」として発表した。報告書では、東アジアがバイオサイエンスをリードすることや、世界の食糧供給システムが中国の中産階級向けに再編されることなど6つの将来予測を提示している。
6カ国75名による将来予測
調査はアメリカ穀物協会が米国の将来予測コンサルティング会社Foresight Alliance社に委託し、消費者行動の分析で実績のある研究者クリストファー・ケント氏がプロジェクト総括責任者を務めた。
4月18日、駐日米国大使館と経団連が共催で発表会見を行い、食品、外食関連企業経営者らと報道機関に対して説明を行った。
調査は日米をはじめとする6カ国75名の専門家によってデルファイ法※で行った。報告書は、6つの洞察を柱としてレポートする内容となっている。
洞察1「生物科学は東へと進行」
中国をはじめとする東アジア諸国がバイオサイエンスをリードする。
現在、中国をはじめとする東アジア諸国はバイオテクノロジーに莫大な投資を行っている。この背景には、膨張する食糧需要がある。とくに中国がバイオサイエンスのリーダーシップを取りつつある。
一方、バイオテクノロジーの利用については、日本をはじめとする国々に根強い抵抗感があるが、これは今後現実のニーズの中、安全性の証明によって拭い去られていく。
洞察2「中国の欲するままに」
中国経済の成長と、莫大な人口による圧倒的な食糧需要により、世界の食糧供給システムが、中国の中産階級向けに再編される。
将来的には人口はインドが中国を上回るとされているが、この先30年間の期間では、中国が旺盛な需要を維持する。
世界の食品産業に関わるすべての企業と各国政府は、この状況への対応を迫られていく。日米両国が、これにどのように影響力を維持できるかは大きな課題になる。
洞察3「信用の獲得」
世界の食料品は、生産地と成分に関する情報の検証可能性が商品価値を大きく左右するようになる。東アジアの食品市場では、製品の安全性、品質、アイデンティティを実証できる企業が消費者の信頼を獲得し、主役を演じるようになる。
これを支えるのは、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、IT、流通システムである。
日本企業は、食品の安全基準が未発達な中国との取引の中でこれを実現してきた実績があり、この面で優位に立っている。
洞察4「アジアの伝統的なハイテク食生活」
東アジアには、食で健康を維持増進すると考える文化的伝統(医食同源等)がある。これは、科学によって健康を実現しようと考える西洋とは異なる文化である。
今後は、東アジアのこの文化と近代科学が融合していく。すなわち、文化として伝えられてきた食の効果を科学的に検証・実証し、その効果を高める研究に投資が行われ、商業化されていく。
欧米式食生活の進行は弱まる。
洞察5「サービスとしての食品:キッチンのないアジア」
東アジアにおいて、食は作るものから買うものへとなっていく。2040年には日本の食品の支出の70%が家庭外で調理されたものになる。
この結果、従来“製品”であった食品は“サービス”へとシフトする。そこで重要になるのは、ブランド、リテイラー、外食産業などである。
この時代の家庭のキッチンは、買って来た食品をテストしたり、再加熱したりするためのものとなり、コンパクトで簡素なものになる。
洞察6「新たな超ニッチ化の時代」
特産品や付加価値の高い食品のニーズが急速に普及し、東アジアの農産物消費のシェアを拡大する。
今後世界の人口の過半数が中産階級となるという人類未曾有の状態となる。そうした中、東アジア諸国でも急速に所得が増え、嗜好は複雑化し、高級食材や特産品の生産と流通に大きなビジネスチャンスが訪れる。
公開された情報
なお、この将来予測は、中国の政治状況、環境の変化、およびインド(東アジアに含まれない)の動向は考慮していない。
駐日米国大使館は、この調査が民間の機関によって行われたものであり、米国の政策を含んだものではないこと、公開された情報であり、議論に供されることに特徴があることを強調している。
●Food 2040ファクトシート、Food 2040レポート
http://grainsjp.org/report_category/food2040-report/
※デルファイ法 専門家の意見や判断を有機的に集約する、定性調査の技法。アンケートの反復などによって進める。将来予測などに用いられることが多い。