バングラデシュの農業は水田作が主体です。施肥については、ここでは水田に窒素の施用が必要と理解されていますが、他の成分についての理解はまだこれからというところのようでした。
施肥への理解は初期段階
筆者が視察したイネの栄養状態はひどくカリウムが欠乏した状態で、ごま葉枯病※が多数発生していました。しかも、現地の農業指導者がこの病気のことを正しく知らず、間違った指導を行っていました。
つまり、まだ日本の昭和30年代初めの現場ということです。
水田への灌漑設備は近代化がまだできてはいませんが、国土全体が低い平らな地形であることからうまくいっているため、稲作には問題ありません。
畑はどうかと言うと、肥料不足からかなりの低収量です。
これに対する農民の対策は、雨が降って生育を維持することを願うばかりという程度です。
総じてバングラデシュでの現在の施肥は、水田も含めて窒素施用が始まった段階というところです。この窒素は、とくに尿素で与える技術が有効だとする考えがすみずみまだ行き渡っています。このことから、窒素は土壌水分のない条件では効果が現れないということを経験で知り、現段階では降雨と尿素施用の組み合わせが、畑のものがよく育つことと推進されています。
しかし、さらに多くのことを学んだ農民は、化成肥料、つまり「3要素」を与えることを知ってきました。
畑の野菜は、市場では時期によって価格が違うので、多くの農民は豆、ジャガイモ、トウモロコシなどに力を入れています。現金よりもお腹にたまる穀類を畑で作る段階ですから、生鮮野菜を積極的に作ろうという段階にはなっていません。
こうした背景もあって、土壌改良よりも肥料に関心が持たれています。土壌改良は時間がかかる割には効果が目に見えない行為ですが、肥料はそれよりも効果実感しやすいものです。日本農業の発展段階でも、やはり戦後の注目の的は窒素肥料の硫安を使うことでした。
窒素の次に関心を持たれたのは、日本の場合はリン酸肥料でしたが、バングラデシュではカリウムの効果の方が先に注目されることになっていくでしょう。
縫製工業が農業に関心を持つ日
また、畑での石灰、マグネシウムの施用は随分と先のことになるだろうと感じました。
繊維を取るジュートは昔からこの国の特産品ですが、その現場は自然任せです。これに窒素とカリウムの施用が行われれば増収は間違いないはずですが、そのジュートの繊維を取った後の茎の部分の扱われ方を見て、これも難しそうだと感じました。と言うのは、彼らは乾かしたジュートの茎の周りに牛の糞をつくねのように巻き付けて乾燥させ、台所の燃料にしているのです。燃料さえそのように自給しているのですから、現金で肥料を買うという時代はやはり先のこととなるでしょう。
とは言え、この国の農業は栽培の基本となる肥料さえ与えられれば、大きく前進するはずです。
そこに資本を投下するのは縫製工業となるでしょう。農村からの出稼ぎ農民のエネルギーは、今後多くの外貨を稼ぐのでしょうから、その先には畑や水田に高い生産性を求めてくるはずだと思うのです。
※ごま葉枯病:イネやトウモロコシなどに発生する病気。葉にゴマ状の病斑が出来て枯れる。菌類によって引きおこされるが、カリなどの各種栄養素や微量要素の欠乏があると発生しやすくなる。