バングラデシュ農業のこれから(1)

インドとミャンマーにはさまれた国、バングラデシュ。地理的にはガンジス川の最下流域です。筆者は昨年10月初めに農業指導に行ってきました。

賃金1日300円の縫製工場

 バングラデシュは、かつては現在のパキスタンと共に英領インドでしたが、インドより近代化は遅れていると言っていいでしょう。

 いつもは初めて訪れる国は、もちろん事前に下調べをして行くのですが、今回は全く予備知識はなしで行くことになりました。

 国際空港はダッカです。ここは、イスラム社会であることを思い知らされる特有の雰囲気がありました。そんな国際空港から街中に入って行ったわけですが、車のポンコツ状態は途上国の中でもかなり悪いものでした。街を走る車の程度は、その国がいかに経済発展を望んでいるかがよくわかるバロメーターの一つです。

 御多分にもれず、都市部の大渋滞は深刻です。ですが、人々の暮らし向きもまだよくないことは、首都の大通りでも人力の移動手段の割合が多いことからもよくわかります。道路自体の状態も、目抜き通りとは思えない状態です。

 訪ねた農村では、働く場所のない若い男性がたむろしている姿をよく見かけました。つまり、その地方に大した産業はまだないということですけが、これは純農村での話です。

 少しにぎやかな田舎町になると縫製工場が建っていて、そうした工場では農村からの出稼ぎ農民が必死に働いています。狭く薄暗いタコ部屋に寝泊まりしての工場勤めです。1日働いて日本円では300円ぐらいの賃金です。

 この条件で働く人たちは、時に暴動を起こすようです。それを常時見張る警察が、こうした工場の近くに駐在しているのが、この国の現状です。

ガンジス下流域のヒ素汚染

 地質学的な興味としては、ガンジス川の下流域に当たることが原因なのですが、ヒ素による汚染が問題になっています。これは工業化が原因ではありません。ガンジス川がヒマラヤ山脈南麓から周辺のミネラル分を集めて来るのですが、その過程でヒ素を化学的に濃縮してしまう現象が起きているということです。そんなことが起きるのかとも思いますが、広大な面積とその年月がそれを起こすようです。

基礎教育を受けていない有産階級

 さて、バングラデシュの概略はこれぐらいにして、農業のことに入ります。

 バングラデシュ社会は階級制度の厳しい掟の中にあり、そのことが土地所有にも反映しています。多数の零細な農民を一部の有産階級が統率しているので、農業技術も上層部から導入されていくことになります。

 今回の筆者の農業指導の対象も、そうした上層の階層の人たちを中心としたものでした。その中には日本留学経験者も含まれていましたが、こうした階層であっても初等教育受けていない人が多い国に共通する問題なのですが、基礎学力がないこと、専門分野においても基礎が不十分なことが壁となりました。

 とくに、今回は有機農業がテーマの一つだったのですが、そのために余計に苦労しました。と言うのも、日本でも有機農業について誤解がある人の場合には、数字を押さえた上での管理の重要性などを理解してもらうのには大いに苦労するものです。まして、初等教育を受けていない人にそれを理解してもらうという課題は、全く難しいものでした。

 では、現場はどのような状態であったのか、説明してみます。

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。