前回、朝鮮半島の岩石は基本的に花崗岩で、土もそれに由来するものと説明しました。また、花崗岩は典型的な酸性岩であるというところまでお話しました。
栄養分が少なく水分保持力も小さな土
酸性岩という表現を聞くと、酸っぱいか苦いかといった意味でとらえたくなって誤解されやすいかもしれません。これは、植物にとってどういうものかで考えると、栄養分が少ない岩石ということになります。逆に塩基性岩というのは、各種栄養がたいへん豊富に含まれている岩石ととらえてよいでしょう。
つまり、朝鮮半島の岩石は基本的に花崗岩であるということは、半島全体がすべて栄養分の乏しい岩石で出来ているということになり、その栄養のない花崗岩から出来る土も、栄養のないものということになります。
この土の性質は、栄養分が少なく、必要な成分を吸着保持する容量も少ない(塩基交換容量は10mg以下)各種微量要素にも不足する、水分保持能力もたいへんに小さい、などの欠点をもった土なのです。
日本にも同様の土があるといましたが、やはり花崗岩地帯の農業生産力は低いものです。たとえば、水田では米の反収(10a当たりの収量)が7俵(420kg)ぐらいの年も珍しくないようです(平年の米反収の全国平均は530kg)。畑では有機物を十分に与えて、かなり手を掛けないと思うような収穫は望めないようです。
韓国では有機肥料を使うことが盛んで、畑の手入れもまめに行う習慣が古くからあるようです。これは、朝鮮半島の土の、以上述べたような事情が影響しているのではないでしょうか。
朝鮮半島の北へ行くほど土の力は弱い
韓国南部の朝鮮半島先端部は、日本の愛知県渥美半島とよく似た土で、畑の光景も同様なものがあります。この地域では、収穫も安定しているはずです。
問題は北にいくほど花崗岩の風化程度が弱く、まだ土壌として熟成していない地帯です。
韓国の北部へ行けば行くほど、この花崗岩の風化程度は低くなり、土としての熟成が弱いという傾向があります。いわば、花崗岩が物理的風化をしてボロボロになっただけの状態です。この状態では、土としての農業生産力はさらに低いと言わざるを得ません。
筆者が最も北部に行った場所は、北朝鮮との軍事境界線周囲の非武装地帯で、外国人は通常入ることは許されない場所です。
そこには韓国で最も区画の大きな畑が造成されていて、近年その開墾がなされ、入植者が入ったということで、近代的なやり方で機械化もされている野菜産地でした。しかし、その畑の土はゴルフの難しいバンカーを連想させる白い色の土であり、全く有機物も含まず、生産力に乏しいものでした。
有機物の供給源として期待される畜産も近くになく、何をどう改善するということを考えるのが難しい場所でした。ただ雨があるので、それに助けられてそのときどきの作柄は決まるということでした。
この難しい傾向は北朝鮮に行けばさらに強まります。それは土壌と気候から推測できることです。
成田から中国の瀋陽行の飛行機に乗ったことのある方なら、窓から見る北朝鮮の風景がいかに緑のない殺風景なものかを知っているでしょう。それは、花崗岩の風化、熟成途中の土で、土が供給できる栄養が少ない場所の光景ということなのです。