北京郊外から東北部に分布するオリーブ色の土は、日本の土壌に慣れた人にとっては、営農上、非常に扱いにくいものです。粒子が細かく、しかも粒径がそろっているために、この土は非常に固く締まります。このため、耕す作業にも苦労しますし、根が張りにくく、また灌漑の方法に注意しなければ根が窒息することも考えられます。
栄養面での心配は少ない土壌
しかし、現実にはトウモロコシや小麦などの作物が大面積で栽培されていて、実際に多年収穫を得ているのですから、生産性がそれほど低い土であるというわけでもありません。
この土の生産力は何によるのかというと、これはまたこの土の成因に話が戻ります。この土はゴビ砂漠で岩石が風化して細かな粒になったと説明しましたが、それはつまり水があまり関与しない風化したということです。岩石の中の成分が溶け出すことなく細かな粒になり、それが風で舞い上がり、東に運ばれて北京から瀋陽辺りに舞い降りたわけです。
ということは、降水の多い日本で岩石が水に洗い流されながら風化してきたのと違って、栄養となる成分が十分含まれている土の粒子ということです。このことが、この土壌の生産力の源になっています。
ですから、考えるべきことは、土壌の栄養をどう補うかということではなく、物理性の改善ということになります。
物理性の改善は困難
とくに粒子の細かすぎる土ですから、隙間なくくっつき合って固まってしまうことが問題です。これに何とか隙間を作ってフカフカにしてやりたいわけですが、これが難しいのです。
なぜ難しいのかと言うと、まず日本のように有機物が手に入りません。日本では何だかんだと言っても、品質にはそれぞれに差はありますが、家畜糞尿を中心に多様な有機物素材は豊富に手に入ります。
ところが、開発途上国はおしなべてそうなのですが、畑に投入できる有機物というものが手に入りません。たとえあっても、それはむしろ家畜の餌になってしまいます。有機物を集めて堆肥を作るなどは、夢のまた夢です。
また、耕うんによって土を砕き、フカフカにするという方法がありますが、これには強力なトラクターがまず必要です。しかし、現実に、あの固く締まった土に作業機の歯を突き刺し、それを引くことができるトラクタというものはなかなかあるものではありません。
点滴灌漑に活路
このように、日本では簡単にできることが不可能となると、全く改良手段がないように思えてしまいますが、手はあります。ほとんど唯一考えられることは、“上根栽培”ということです。
これは、作物が育つ土の層を厚く確保できないときに行うもので、たとえると盆栽に似ています。浅い鉢で土も浅い状態で盆栽を育てるためには、水かけのテクニックがものを言うわけです。そのテクニックとは、一度に大量の水を掛けるのではなく、少しの量の水を何回にも分けて与えるやり方です。
では、そもそも水はあるのかということですが、中国の東北部では地下10mぐらいに地下水があって井戸として確保できる場所は多いのです。まず掘削井戸を確保します。その水を畑の作物に与える方法としては、点滴灌漑を用います。
点滴灌漑とは、土に水が浸透していくスピードに同調させたスピードで、水をポタリ、ポタリと滴下する灌漑方法です。この方法では、土の団粒構造が出来ていなくても作物の根がうまく働くことが一つの特徴です。これには点滴チューブという専用のチューブを用いますが、このコストはそれほど高いものではありません。
灌漑水が確保できても、何らかの事情で点滴灌漑の設備ができない場合は、畝間灌漑を行うことになります。その場合のポイントは、あまり長時間の灌漑よりも、一度の灌漑量を少なめにして、回数を多く与えるやり方がよいのです。
また、肥料は表層付近に位置するように施すやり方がよい結果を出しているようです。