日本の土壌の性質をまとめて、全国的な視点を持ちながらおさらいをする続きです。日本列島で見られる土壌としては、ほかに赤黄土と砂丘未熟土も特徴的です。これらについて考えていくと、土を見るときの視点として、単に肥えているかやせているかではない視点の重要性がわかります。
土壌の性質の理解で生まれた優良な産地
赤黄土地帯
前回は、日本の土壌の特徴のおさらいとして、火山灰土が多いこと、多様な地形による多様な土壌条件があるという話をしました。
さて、次に日本にも赤黄色の土の地帯というものがあります。これは酸性を示す土壌でしかも水はけが悪いために、かつては一般的な作物には向かない土地でした。しかし、改良法が見つかってからは広い面積のまとまった畑が有名な野菜産地になっていきました。これらは濃い味の野菜になる傾向があります。
砂丘未熟土
また日本の地形は海岸線が非常に長いわけですが、そのため海成砂土や川が造った砂土の地帯が多くあります。これらには多くの優秀な野菜産地があります。そこで出来る作物は特有のさっぱりした味が特徴です。たとえば、セロリなどは人によっても好みは異なりますが、セロリ特有の強い香りが抑えられ、特徴的なパリパリを持ったものが出来ます。
またダイコンなどの根ものは肌がきれいに仕上がるのも特徴です。
肥えているかやせているかを超えた視点
この種の土は砂丘未熟土という名前で紹介したわけですが、砂が土であるということに驚いた方も多かったでしょう。多くの人は砂土はやせ土の典型ととらえていると思いますが、その砂土地帯に多くの優良な野菜産地が長年その名をはせているというのが、土壌を見る面白さでもあります。
砂土の特徴は、やせているという点よりも、むしろ根の周囲に酸素を供給しやすいという点にあります。つまり、砂土は大きな砂粒の隙間に十分な空気を含むことができるため、根が水や栄養を元気に吸うことができるのです。また、砂粒という風化していない粒子からは、多くの無機栄養がバランスよく供給されるということでもあり、これが味に特徴を与えるのだとも考えられます。
砂土に優良産地が多いということは、このような土の環境がいかに大事なことであるかを、私たちに教えてくれる例であるとも言えるでしょう。土壌を見きわめる際に、単に肥えているかやせているかではない視点と判断基準を持つことが食のプロが身に付けたい力とも言えます。
粘土の多い土壌では空気を考える
ここで、肥えているかやせているかという単純な尺度で起こしやすい誤りの例をもう一つ付け加えておきましょう。
砂土や黒ボクのようにさらさらの土は、窒素を保持しにくいということは言えますが、たとえば砂は酸素と無機成分を供給しやすいですし、砂土や黒ボクは軽く取り扱いがラクであるというメリットがあるということは、これまでの連載で理解していただけたと思います。
では、粘りのある土についてはどう思われるでしょうか。まず、肥料持ちがよいというイメージがあるでしょう。確かに、土の粘り気と保肥力は比例するように見えるのは間違いとは言えません。しかし、この粘り気は、農家がこの性質を相当に考えて管理していかないと、とんでもない結果を生ずることになります。
粘りは粘土があることで生じる現象です。その粘土こそが各種肥料分を常に吸着保持して、そこに植え付けられている作物に適宜必要な栄養を少しづつ与えていくことを行う主人公と言えます。だから、粘り気と保肥力は比例して見えるのです。しかし半面、粘土は水を含んだ状態で練り込むと、作物の根にとっても最も脅威となる状態、つまり酸素欠乏を起こす条件が出来てしまうという特徴を忘れてはいけません。
この現象は、もちろん水田でも生じます。しかし、水田では酸素や肥料成分を含んだ水が縦に浸透していく条件さえ整えてやれば、この悪条件を乗り越えることができます。ところが、湛水しない状態、つまり畑ではもちろんこうはなりません。
ですから、粘りの強い土壌の圃場では、土壌中にいかに空隙を作るか、空気を送り込むしくみを作るかについてよく考えなければなりません。圃場の土に空気を送り込む方法は、気体そのものが入るようにすることのほかに、空気を溶かし込んでいる水が浸透するようにしてやればよいのです。つまり、水はけについて気を配る必要があります。それには、圃場の地下に暗渠を設置するとか、畑に大きなナイフのような農機(サブソイラ)で切り込みを入れてやるとかの方法があります。