褐色森林土は、広葉樹の落葉が含むカルシウムなどのおかげでバクテリアがよく働き、その地域の降水量の関係から成分の流亡も少ないのが特徴です。ところが、日本の場合は降水量が多いため、褐色森林土とは言っても成分が流亡し、酸性に傾いた土となっています。
バクテリアが働き成分の流亡も少ない
前回説明したようなわけで、落葉する広葉樹が生い茂る場所では、土壌にカルシウムなどのミネラルが供給され、バクテリアの働きで腐植が出来ていきやすいため、そこに出来る土壌は質のよい腐植を含んだものとなります。
さらに、広葉樹の分布する気候帯は熱帯よりも緯度は高く、年間降水量は1000mmぐらいの地域です。そのような環境であれば、土壌中から各種の栄養成分が過度に流れてしまうことがなく、土壌は農業生産力の高いものとなります。高温多湿の熱帯では土壌中の鉄が酸化して赤い土になりますが、広葉樹が分布する気候帯ではそこまで風化が進むことなく、褐色に留まる程度の色の土が広がるわけです。
これが、本来の意味での褐色森林土です。
日本の褐色森林土はヨーロッパのそれとは違う
さて、日本の土は世界の土の分布を示す土壌図の上では、すべて褐色森林土ということになっています。ですから、海外に行って日本の土の種類を聞かれたら、答えは褐色森林土(brown forest soil)と答えておけば間違いありません。そして、この答えを聞いた相手は「いい土じゃないか」と思うでしょう。褐色森林土はヨーロッパなどに分布するよい土ということになっていますから。
ところが、ここが重要で、日本の褐色森林土は、ヨーロッパなどのそれとは実は違います。
日本の褐色森林土は、正確には酸性褐色森林土ということになります。というのも、これも何度も指摘しているように、日本は温暖な上に非常に降水量の多い地域です。そのため、土に含まれる鉱物がもともと持っていたさまざまな成分が流れ去ってしまっています。一方、その失った成分の代わりに水素イオンは保持されていて、このために強い酸性を示すのです。この土は朝鮮半島の先端部にも分布しています。
浅耕用の農機を使うため土壌改良は成功していない
この欠点に苦しんできた我が国は、戦後、酸性土壌の改良を進めました。そして、これは昭和40年代にはほぼ完了した、ということになっているのですが、現場で実態を調べてみると、意外にもそうはなっていないことがわかります。
どうなっているかというと、表層の10cmぐらいはカルシウムやマグネシウムが過剰傾向にあり、それより下層は逆に不足状態というようになっているのです。
なぜこうなるのかというと、表面に酸性改良の資材、つまりカルシウムやマグネシウムを撒き、それを浅耕しているためです。
日本の農家は、耕うんに「ロータリ」というものを使います。これはトラクタに取り付けて引っ張る農機の一つですが、表層7~10cmぐらいの土を砕くために使うものです。水田に水を張る前に使うと便利なものとして普及したものですが、畑でも見た目に耕せたように見えるので、北海道以外のほとんどの農家は畑を耕すときにもこれを使っています。
しかし、当然この方法では表層7~10cmぐらいしか土と改良材は混合されません。そのため、ある深さから下は改良されていない状態のままなのです。
ロータリで浅耕するのではなく、深耕するための農機を使ってこの問題をきちんと解決すれば、日本の褐色森林土は素晴らしい土にできるのですが、現場ではなかなか取り組まれる気配がありません。
褐色森林土は、温帯地域だからこそ繁茂する広葉樹によって作られた、優良な部類に属する土です。しかし、改良法の発見と普及は以外とうまくいっていないのです。