黒ボクは軽く、軟らかい土で、とくに排水性のよい場所では良好な圃場を作ることができます。黒ボクの黒さや軟らかな性質は腐植の多さによるものです。黒ボクはなぜ腐植が多いのかと言うと、その腐植がアルミニウムと結び付いていて、分解しにくいことによります。
排水のよい場所では黒ボクでもよく育つ
黒ボクの土地はスカスカで、そこに建てる建築には私は不安を感じますが、圃場としては見るべきものがあります。何度かお話しているように、黒ボクは化学性さえ改良すれば、根を張りやすく作物を作りやすい土でもあります。実際、巧みな農家の圃場では、長年の努力で黒ボクでありながら栄養豊かな状態にできているケースがあり、野菜などの多くの優良な産地が出来上がっています。
こうした圃場の栄養の状態を火山灰ではない土と比べることは困難ですが、生産者の意見を総合すると、排水のよい場所では、黒ボクで作物はよく育つということです。よく育つということは、おいしいものが出来ると考えて差し支えありません。
ただし、この黒ボクで採れたものを評価する場合に気を付けるべき重要な点は、リン酸過剰になっていないかです。
これは、黒ボクの大きな欠点としてリン酸を効かせない性質が発見されたことに始まる話ですが、昭和40(1965)年頃までは、日本中の農家や行政は黒ボクへのリン酸施用に必死でした。その結果、適正な施用範囲を遙かに超えて、現在は多くの黒ボク圃場でリン酸を入れ過ぎの状態が見られます。
このことさえなければ、黒ボクは日本人が行った土地改良の優れた事例以外のなにものでもありません。ですが、このリン酸過剰状態もまた、世界にも例のないほどのすさまじいものです。
この過剰状態は、やはりそこにできる作物の味や健康さにも影響を与えないはずはありません。個々の圃場が持つ多様なファクターによって、その影響もさまざまなので、ここでは「はず」と言うに留めますが、土の化学性という目には見えないものを土壌調査などでしっかりと確かめることは大切ですから、その検証を行うきっかけとしてこの歴史や傾向は覚えておいてください。
黒ボクでリン酸過剰になると、何がよくないのかについては、次回詳しく説明します。
黒ボクの腐植はアルミニウムと結び付いている
さて、今回は黒ボクが化学的に大きな特徴があることを述べます。黒ボクの化学性については、黒ボクシリーズの初めのところでも説明しましたが、重要なことがあるのでおさらいも兼ねて説明します。
黒ボクの特徴である、ボクボクしていて真っ黒である原因は、腐植です。とくにその含量は他の土よりも桁外れに多いのですが、これには理由があります。
理由とは、アルミニウムです。
日本の火山灰土が不良土であり、農家に苦労を強いたのは、アルミニウムが溶け出すためであったということはこれまでにも説明しましたが、実はこのアルミニウムが腐植と結びつくことで、黒ボクは出来上がっているのです。
そして、アルミニウムと結び付いた腐植は、自然状態ではほとんど分解されないのです。
ですから、毎年生い茂るススキのような大型植物の遺体から生じる腐植は、黒ボクのアルミニウムと結び付き、これが分解されないことから段々と堆積していくことになります。
毎年このことが繰り返されると、そこには厚い腐植層が形成されることになります。関東地方ではどこでも見られる、深くまである黒い土は、こうして出来上がったのです。
同じ黒い土のチェルノーゼムと何が違うのか
分解されにくいから堆積し、分解されにくいから作物の栄養にもならないということを確認してください。
本来、腐植とは、植物や動物の遺体や動物の排泄物などが土壌中で分解され、その後再合成された土に固有の有機物という定義ですから、土の中の物質では最も不安定なものです。ですから、一般的には腐植は分解されやすいものです。
ところが、黒ボクの場合は、この分解されやすい物質が分解されにくいという点に、大きな特徴があるわけです。
その原因がアルミニウムと結びついていることとは何とも不思議なことです。
ウクライナ地方の土壌はチェルノーゼムと言って、世界的に見ても素晴らしい土壌であることは何度かお話しています。このチェルノーゼムと日本の黒ボクを比べてみると、外見の差はほとんどありません。
ところが、チェルノーゼムの腐植は適度の分解作用を受けて、作物の求める栄養を出していくので、ウクライナでは無肥料で何年でも作物が出来ます。むしろ、ダイズなどは日本の品種では背丈が伸びすぎてしまうようです。栽培を行ってみると、黒ボクとは大違いです。
では、黒ボクとチェルノーゼムとで、腐植の分解にどうしてそのような違いが出るのでしょうか。