メーカー・卸売・小売・外食こそ土壌図・土壌型の活用を

作物の品質の善し悪しは気象や作り手の腕にもよるが、実際には土壌型の影響も無視できない。従来、土壌型の知識は土壌地理学という学問の世界での価値にとどまっていたが、世界の土壌図が入手しやすくなった今日、食品メーカー、卸売業、小売業、外食業のバイヤーこそが、土壌型を活用し、その価値を引き出す段階にきている。

土壌型による農産物の品質差は無視できない

 土壌図は、農産物の評価や食材の調達を行う上でもたいへん役立つものです。

 たとえば、米やレタスやトマトなど、同じ作物でも場所によって味や性質が違うとか違わないとかいう議論がよくあります。その違いは、気象条件や作る人たちによっても出るものですが、土壌型の影響も無視できないものです。

 今は米と言えばコシヒカリというほど、全国各地で盛んに同じコシヒカリが栽培されていますが、コシヒカリだから同じ値段ということは全くなくて、産地ごとに評価も価格もさまざまです。

 これが作り手の上手下手で差が付くというのでしたら、ではあの県の人たちはおしなべて上手で、この県の人たちはおしなべて下手、と考えなければいけないでしょう。しかし、個人個人の違いはあっても、ある地域の人たちがそろって上手だ下手だということは考えにくいものです。

 それでも、みんなが使っている肥料が違うとか、営農指導が違うとかも考えるかもしれません。それらによる違いがないとは言いませんが、多くの場合、そもそも土がどのようか、すなわち土壌型がどのようであるかを考える人が少ないのは残念なことです。

個別の田畑の土壌型が確認できる日本の土壌図

 ここで、土壌の性質の影響に気付き、その場所の土壌型がその作物に合っているかを調べれば、その場所でその作物を作るための対策を考えたり、あるいはその場所により適した別な作物を作ることにするといった対策を考えることができます。

 そこで、いちいち土壌調査をするということも行われるわけですが、日本の土壌図では水田や畑の一枚一枚の土壌型が確認できますから、たいへん実用的です。

 もちろん、土壌図を見るだけで、「この畑の土はこうだからこういう品質である」とか「この田んぼの米はこういう味である」とかと即座に断定することは難しいでしょう。ですが、食品メーカー、卸売業、小売業、外食業の仕入担当の方が、多様な地域の多様な食材を扱ってきた経験を補足する情報としては大きな価値があるはずです。

 たとえば、土壌図を眺めるだけで農産物の品質を云々するのではなく、ある地域の傾向を土壌図を見ることで把握した上で、その地域の米や野菜を扱えば、個別の品質や味の違いをしっかりと認識できます。

 土壌図と土壌型の知識は、どんな肥料がいいかとか、どんな特殊な資材がいいとか、あるいは特別栽培がいいとか、あの生産者は篤農家だからいいとかという範疇とは全く異なる次元の情報を提供してくれます。

経験豊富なバイヤーこそ土壌図の価値を引き出す

 実は、これまで土壌型という学術上の発見は、土壌学者たちの発見であって、土壌地理学という学問の中での評価に留まっていました。

 しかし、誰にも入手しやすい土壌図が作られ、一方、世界の多様な地域の多様な農産物を扱うバイヤーという、今までにはなかった経験値を持つ人たちが現れ、その両方の知識・経験が組み合わさることで、土壌型は実際のビジネスの中で活用できるところに来ているのです。土壌図が実用に供されることで、土壌型という知恵の新しい活用が行われる段階に入っているのです。

 しかし、実際に土壌図を活用し、土壌型を意識した仕事をしている人はまだまだ少数派でしょう。興味を持たれた方は、ぜひ活用に挑戦してください。

 この連載では、そうしたさまざまな土壌型と作物の関係について、引き続きお伝えしていきます。

アバター画像
About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。