作物の栄養(19)光合成とのバランス(1)

植物は光合成によって炭水化物を合成し、エネルギーとして活用している。したがって、植物の栄養を考える際、光合成がうまくいっているかどうかを調べることも大切だ。観察のポイントは、作物が植えられている間隔と、作物自体の体の形となる。

太陽エネルギー活用を追求する農業

 作物の栄養について、個々の成分ごとにお話してきましたが、光合成のしくみも栄養獲得の一つですから、最後にそれについてお話しておきましょう。

 光合成に必要なものは、光、二酸化炭素、水です。光合成の作用の中で、植物は空気中の二酸化炭素から酸素を奪い取り、水から水素を奪い取ります。この自由になった炭素と水素とを結び付けることで、糖を合成します。この反応に、植物が特異的に持つクロロフィル(葉緑素)という物質が吸収した光エネルギーを使うわけです。

 こうして植物が作り出したものを、植物そのものも、そしてヒトを含めた動物も、逆に分解して栄養にしています。したがって、光合成で無機物から有機物を生産する植物こそ、生態系の基盤となる役割を担っているわけです。光合成の始まりこそが、地球の奇跡の始まりであったと言えるでしょう。

 そして、その働きを巧みに利用する産業が農業ということです。農業は、光合成をいかに効率よく行わせるかの技術だと言えます。

 最近は自然エネルギーの一つとして太陽光発電など、太陽エネルギーの活用が話題になっていますが、農業は昔から、太陽エネルギーを有効に活用する産業だったのです。

作物が植えられている間隔を見る

 さて、光合成の効率は光の量と質が左右します。北欧などでは太陽光が弱く、光合成の働きが鈍ります。そこで、補光と称してナトリウムランプなどを用いて施設園芸を行っていると本で読んだことがあります。また、現在の日本でも、植物工場がLED照明で植物の光合成を行わせているといったことが話題に上ります。

 日本の露地の畑や水田でも、地域、季節、天候によっては日照不足を心配することもありますが、通常注意すべき事柄は、作物が日光をしっかり受ける形になっているかというように、日光のことではありますが作物自体に注意を払います。

 その視点では、まず作物の植えられている間隔が問題になります。

 たとえばイネでは条間(田植機が進んでいく際、進行方向に対して垂直方向の間隔)は30cmで、株間(同じく進行方向の間隔)は18cmが一般的です。最近株間を広く取る疎植(株間26cmなど)がはやっていますが、韓国でよく見られるようにこれよりも間隔の短い密植もあります。

 野菜ではさらに畝間(畝と畝の間隔)・条間・株間について、さらにさまざまな間隔の設定があります。

 小売・外食のバイヤーの方も、これを見たり聞いたりして確かめると、農家によって考え方と実際のやり方がいろいろであることを理解することができるでしょう。

作物が日光を受ける形になっているかを見る

 次に、作物の形を見ます。

 たとえばキャベツについて見てみましょう。キャベツの苗は移植段階では子葉が2枚と本葉が3~4枚です。これが育って本葉が8~9枚の段階になりますが、まだ結球せず、すべての葉は開いて太陽光線をいっぱいに浴びている状態になります。

 この精一杯開いている状態が大事です。結球性の葉野菜が、結球する前に大きくすべての葉が開いているかいないかは、光合成がうまくいっているかいないかという判定材料になるのです。もしもこのとき、ねじれたり、葉が小さかったり、先端の丸みが波打っていたり、葉の周辺が褐変していると問題があります。

 イネの場合は、田植えの後、穂が出てくる40日ほど前の葉の立ち上がり方で、その栄養状態を知ることができます。光合成が効率よくできているイネは、この段階ではイネ同士があまり混み合っておらず、それぞれの株がピンとした葉と草型になっています。

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。