醗酵によって分子量を小さくした有機成分資材が開発され、活用されるようになっている。栽培上有効な上、ハンドリングもしやすいことで人気を集めている。しかしよく考えてみれば、このような有機成分の与え方が有効であるということを、近代化学以前の先人たちは知っていた。
醗酵で分解した有機成分資材
従来、圃場に入れる有機成分として思い付くものは、堆肥、ボカシ、緑肥といったものでした。これに対して、近年は新しい資材が開発され、有機成分の概念を変えています。そのことについて述べてみます。
まず、一般的な有機成分の特徴として、たいへんに大きな分子量の有機化合物があります。また、堆肥となると非常に重量とかさがあるものです。しかし、そうではないもの、分子量の小さなものもあります。この比較的小さな分子量の有機成分こそ、実は植物の根が直接吸うことができる、作物栽培で効果を出しやすいものです。
それは何かと言うと、醗酵によって高い分子量の有機物を低い分子量のものに分解したものです。
魚粕などに含まれるタンパク質や脂肪などの分子量は20000~70000程度あると言われています。また菜種油粕などに含まれる有機成分は分子量20000ぐらいです。これに比べると、醗酵によって作るこの種の資材の分子量は5000~10000程度です。ちなみにアミノ酸の分子量は100~300ぐらい、アンモニアは17です。
従来は5000~10000程度の分子量では植物の根から直接吸収されることはないと考えられていましたが、近年の研究では吸収されるということが報告されています。実際に施用した現場の感覚でも、これを否定する人は少ないでしょう。
圃場での微生物による分解を経ずに、根が吸収するということは、圃場での不良な醗酵/腐敗で根を傷める可能性が減るということです。また運搬や散布などのハンドリングも楽な資材になっています。
圃場内での醗酵は難しい
このような資材が開発される以前、先人たちは有機物の施用をどのように理解して、現場で活用していたでしょうか。
その一つは、土壌中で醗酵させて分子量を小さくするというものです。つまり、動植物由来の有機物を高分子のまま直接畑に入れてしまう。
このやり方では、有機物のよさが発揮されることが少なかったと言えます。というのは、圃場の中ではどのような微生物が活動するかコントロールが効きません。思わしくない醗酵/腐敗を起こしてしまう可能性があります。また、植物にとって有用な低い分子量で留まることなく、無機物にまで分解してしまうということもあります。
近代化学以前に先人たちは知っていた
これに対して、先人たちは畑とは別の場所で貴重な有機物を醗酵させて微生物の繁殖も促すという方法を考え出しました。それが堆肥作りやボカシ作りというものです。
この歴史は古く近代化学以前から行われています。つまり、皮肉なことに、農業を取り巻く学問は、人々がとうの昔からやり続けてきた知恵を理解することなく無駄な論争をしてきたようです。
リービッヒの功績は偉大です。しかし、「無機栄養だけで」と考えてしまった点は、今日では誤りだったという判定になります。一方、有機栄養についても、分子量が大きければ根から吸収されることはないという考え方が長い間支配的でした。しかし、ある程度の大きな分子量の有機物でも吸収されること、それを与えるには圃場の外で適切な醗酵を行うべきことを、近代化学を知らない先人たちはわかっていたのです。
このように科学者のほうが策士策に溺れるではありませんが、理論を掘り下げてしまう余りに誤ってしまう「科学的迷信」とでも言うようなことが、実際の農業現場と農業技術開発の間には今もあることを心得ておいてください。