カルシウムは植物の体の中で、ある部位から別の部位へ移動するということができない成分です。したがって、不足はダイレクトに障害につながります。これを効かせ続けるには、単に量を与えるだけではない工夫が必要です。
ある部位から別の部位へは移動できない
植物にとってのカルシウムを考えるとき、外部から吸収することにもまして、植物の体の中での移動についてもよく理解しておく必要があります。
植物が必要とする各種の成分には、実は、植物の体の中のある箇所に蓄えたものが他の箇所に移動できるものとできないものとがあります。そして、ある成分の不足が生じたとき、その両者のどちらであるかによって事態の深刻さは全く異なります。
カルシウムは植物の体の中で移動ができないものです。そのため、不足が生じると生長点にすぐに欠乏症が現れてしまいます。
これは重大なことです。生長点は本来、一時もその細胞が休みなく営まれなくてはならないものです。ここで細胞分裂がストップするということは、植物の生長そのものが止まるということで、作物ではすなわち収量が上がらない、品質が悪い、ということに直結します。
根の生長点でカルシウム不足を来すことは、とくに大きなダメージにつながります。うまく生長できなかった根は、土壌からカルシウムを吸い上げることがうまくできなくなり、これが他の生長点全体の障害につながっていくからです。
成分の濃度、バランス、水分
また、カルシウムの吸収については、もう一つ重要な注意点があります。土壌中にカルシウム以外の他の肥料成分が多過ぎると、たとえカルシウムが土壌中にあっても、作物は吸収できないという現象が起きます。
とくに影響の大きいものはアンモニアやカリの過剰です。
これらの過剰は堆肥のやり過ぎでよく起こります。有機栽培をやっているという圃場では、しばしば各種の成分過剰が強く、アンバランスな作物が出来ているケースに出合います。その場合によく問題となっているのが、このアンモニアやカリの過剰によるカルシウム吸収阻害です。
逆に、カルシウムをうまく吸収させるコツは、土壌水分の管理と深くかかわりがあり、これはかなり大事なことです。
たとえば雨がないと野菜は生育が悪く、形も悪く、おいしくないものが出来てしまいます。2012年2月初めのレタスなどその一例です。
水の不足自体も植物の生長を阻害するものですが、水分不足によって各種成分、とくにカルシウムの吸収がうまくいかなくなることの影響は大きいものです。
ですから、適正な肥料濃度、各成分のバランス、また適正な土壌水分、これらのいずれも軽視しないことが、カルシウムを絶え間なく円滑に作物に吸収させることのコツと言えます。
カルシウムをうまく吸収できなかった作物は、出来映えとしてはどうなるかというと、野菜であればシャキッとした鮮度を感じさせるものがなくなります。また、味に苦味を感じる場合も、カルシウム不足と強い関係があることが多いものです。