窒素は植物の生育や活動に最も大きな影響を与える物質で、量も必要です。しかし、だからと言って大ざっぱに扱うのではなく、量とタイミングに気を配ることが収量と品質に利いてきます。
作物は栄養状態の結果を正直に表現する
作物の栄養についていろいろと書いていますが、読んでも何だかよくわからないというのが本音という方も多いでしょう。しかし、作物の姿や形がどうできるか、それについて各産地が今どんな課題を持っているのか、障害の出やすい条件がどのようか、天候などで品薄になる理由はどのようか――そういったことの背景には、必ず作物の栄養の問題があり、野菜などの作物はその結果を正直に表現します。
ですから、生産者だけでなく、流通業、小売業の方などさまざまな立場の方にとっても、これらのことを少しずつでも知ることは仕事の楽しみや、より深く掘り下げるヒントにもなっていくはずです。そんなことで、作物の栄養の話を続けています。
窒素は生物の基盤にかかわる物質
さて、前回に続いての窒素です。窒素は作物の収穫量や品質に最も影響がある成分です。半面、農業を営む人が与える量について最も悩む成分でもあります。たいていの作物で、窒素の要求量は10a当たり5kg程度ですが、何も考えずにその量を与えればいいというものではありません。実際には量とタイミングに苦心するものです。どこで尋ねても窒素の与え方の決定打というものにはなかなかお目にかかれず、私自身も正解を出し切れていません。
それでもまず、基本をつかむために、窒素は植物の体にどのように働くのかというあたりを見てみましょう。
植物にとって、窒素はタンパク質、核酸、葉緑素、ホルモンといった生命維持にたいへん重要な部分を担っています。葉緑素への影響も大きいということは、窒素成分が炭酸同化作用(光合成)にもかかわっているということです。さらに、酵素作用にも、細胞の原形質の主要な部分にも、遺伝を司る遺伝子そのもの、また細胞分裂にも関与しています。
もちろん他の成分も重要な働きをしているのですが、窒素は生物としての基盤にかかわる物質だということです。この成分が不足すると、作物は見るからに勢いをなくしてしまうものです。しかし、多過ぎてもよくなく、窒素過剰な作物はやはり見た目にも不健康になります。
施用法に神経を使うべき成分
また、作物つまり食品として考えた場合には、窒素はわれわれがうま味を感じるアミノ酸等の成分にも深くかかわっています。
こうまで言われると、窒素肥料を施すとき、肩に力が入り過ぎて、返ってうまくいかなくなるのではと思うかもしれません。しかし、最も量が必要な成分だとしてばらまくよりも、それぐらいに神経を使うべきものだと考えるようになることはよいことです。
施肥と作物の健康と不健康の関係という話は、後日「作物を測る」というコーナーを設けてそこで紹介することにします。そこでは、ある成分が漠然と多い/少ないではなく、実際の供給量や吸収量を測定して、その結果どのようなことが起こる、どういうわけで起こるという理解を可能にするものにします。