実際の窒素の働きについて考えていきましょう。水田で栽培するイネはアンモニア態窒素を利用しますが、これは比較的扱いやすいものです。しかし畑の作物は硝酸体窒素を利用します。これはコントロールのしにくい代物です。
空中の窒素をいかに利用するか
私たちの生活する場所は、地球の大気の最も底の部分になります。この場所は、大気が最も高い圧力で押さえつけている環境で、また大気の8割を占めているのは窒素ガスです。
この環境に生まれた原始的生物(微生物と理解してください)は、窒素ガスというその後の進化した連中には利用できないものを利用できる優れた能力がありました。それが窒素固定です。
窒素ガスは確かに窒素成分ではありますが、進化した植物は空中の窒素ガスを窒素成分として取り込むことはできません。もしそれができるなら、農業は大変やさしいことになるでしょう。
また、空中の窒素ガスをアンモニアに変えることは、工業分野でも重要課題でした。これは第一次世界大戦の開戦2年前(1912年)のドイツでハーバー・ボッシュ法という名前で発明されました。
高い圧力の容器内に鉄を主とした特殊な触媒で窒素ガスを作用させるとアンモニアが得られることを見つけ出したことは、火薬の原料となる硝酸の製造につながることで、戦争の後押しにもなってしまったことではあります。
アンモニア態窒素と硝酸態窒素
さてこの窒素は作物の生育に最重要ではありますが、栽培の現場では思い通りに与えたり、抑えたりすることが難しいのです。
また、畑と水田では様相が全く異なります。
水田では、窒素を与えることや控えることは畑と比べるとやりやすいのです。これはイネに特定した話でもありますが、イネは水田で水を張った状態で窒素を与えることから、おのずとアンモニア態窒素という形で与えることになります。アンモニア態窒素というのは、土壌に水分があれば安定な無機態窒素で、土壌に施しても速やかに吸着されることから肥料流亡もなく、使いやすいということになります。
これに対して畑では硝酸態窒素という形で作物に与えることになります。硝酸態窒素は変化しやすく、土壌に吸着されずに流亡しやすく、過剰になることもあり、やりにくいものです。
また畑ということ自体が、水分量を安定させにくいものです。この水分の不安定は、直接に作物の窒素吸収に影響してしまいます。
これが野菜の出来不出来として現れます。不作で高値が付く野菜はみすぼらしい姿で、豊作で安値のときの野菜は素晴らしくよい姿という反対の現象につながっているのも、畑の窒素の効き具合が主な原因となっていることです。
また、この作物の栄養というのは一つの成分が原因で何かの不具合が起こるということより、いくつかの成分の組み合わせで欠乏症や過剰症になることが頻繁なので、そのメカニズムも理解して臨む必要があります。
たとえば硝酸態窒素の変動は、同時にカルシウムの吸収の変動とほぼ連動して起こりますので、この法則性も知っておくと役に立ちます。
前段の話が長くなりましたが、次回は窒素成分と作物の関係を説明します。