作物の栄養を考える上で、光合成は無視できない。作物が各種の成分を吸収しようとすることも、光合成という機能があって説明がつくことだ。
陸に上がった植物は背伸びをした
最初の生物の発生以来の長い道のりは省くとして、光合成を行う植物が現れたのは惑星地球の大きな転換点です。それまで地球上にはほとんどなかった酸素が作られていくことになったわけですから。
酸素は、その後30億年という気の遠くなるような時間をかけて地球のオゾン層を形作る原因物質になっていきます。
オゾン層ができたのは4億年前と言われています。この段階で、多くの生物が海から陸に上がることができるようになりました。
それまで海に浮遊生活をしていた緑藻類も、その子孫たちが陸に上がっていきます。また細菌類やコケ類なども続々と陸地に上がったことでしょうから、こうした生物が他の生物の繁殖を促したことも明確です。結果、そのような植物が今日の土壌を生成することになります。このプロセスは、第5回とそれに続く回でご紹介したとおりです。
こうした植物の上陸によって、適応しやすい場所では植物の競合が生じて、そこでの勝因は他の個体よりもより太陽光線を受光できることで優位に立つ能力でした。 その能力の中でも、わかりやすく重要なものは、より背が高くなるということであったはずです。この背伸びのための器官が、維管束というものでした。維管束を持った植物は、デボン紀という4億年ほど前の時代に現れます。
その前にも背を高くできるクックソニアというものがシルル紀、デボン紀の前の4億3千年前ぐらいに出現していますが、これは維管束を持ったものではありませんでした。
光を求める習性にスイッチが入ると
さてこの維管束という器官こそ、現在われわれが農業をする場面で、コントロールを要求されるものです。
ホームセンターで5月頃たくさんの野菜苗が売られるのですが、その善し悪しを見分ける方法をよく聞かれます。はっきりしているポイントの一つは、維管束が不自然に伸びているものはよくないということです。
この植物の根の部分、つまり株元から先端部までをパイプでつなぎ、葉や花、実が必要とする水や栄養を上に上げたり、下に降ろしたりする器官が維管束です。
この部分のもう一つの役割は、伸びることが必要なタイミングにすぐに伸びることです。
植物が陸上に上がった場面で、太陽光線を奪い合う競争を述べましたが、この競争に勝つには他より急激に体を高い位置に伸ばすことが優位に立つ条件です。それには、維管束がより短時間に長くなることです。
この習性は、多くの植物が備えています。
たとえばトマト。トマトは夜の気温が高い条件で、他のトマトと密な状態におくと、それぞれが背伸び競争を始めますが、この勝負は一晩で片を付けます。
そこで、ホームセンター店頭で見かけるトマトの苗を考えてください。維管束が不自然に伸びているトマト苗とは、暑い初夏の夜、店頭でトレー上に並べられてひしめき合う苗たちが一気に背伸び競争をしたためで、よくあることです。
これら、ホームセンターの店頭でよく見かけるヒョロヒョロの徒長苗は、植物の光を求める習性にスイッチが入った結果に他なりません。ただし、彼らは適正な時期の前に、フライングをしたのです。
さて、いずれにせよ、植物のエネルギー獲得で最重要なポイントは、光合成を営むことに違いありません。それが成り立つことで、これからお話しする各種栄養の吸収が必要になってきます。