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農業生産を行う現場を7つに分類し、それぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明している。ハウスで覆った圃場には何が起こるのか。「施設園芸では土壌消毒が必須」と言われるのはなぜかを説明する。
簡単に始められる罠
ハウスでの地床栽培は、何でも作りたいものがいろいろ作れるという経営上の特徴があります。
以前紹介したロックウール、ココヤシ繊維、ピートモスなど固形培地によるハウス栽培では、やはり作物が限られますが、地床では作物を選ばないという有利さから、多くの地域でさまざまな栽培を実現しています。
ということは、その時々の市場性に合った経営が簡単に組み立てられるということで、産地がどんどん拡大していった一つの要因にもなっています。
このように、ハウスでの地床栽培には経営の自由度がありますから、この方法での土がどうなるのかということを理解している生産者は、いわゆる連作障害もなく、低コストで経営状態も良好です。
しかし、あまりにも簡単に始められることから、「みんながやるから自分も」というタイプの人は、短い期間で土を痛めてしまいます。また、よく「施設園芸では土壌消毒は必須」と言われますが、そう言われるようになったのには原因があり、回避する方法はあるのです。
どんなことでも、根本のメカニズムを知る必要があります。
欠乏ではなく過剰が問題に
まず、ハウスで覆われた地床は、ハウスで覆う前の畑つまり露地の圃場とは異なるものだということを押さえてください。
言うまでもなく、露地の圃場は、雨が降ることで余分な肥料分は流されます。とくに窒素は激しく流亡します。一方、リン酸はほとんど流されません。カリも少しだけは下に移動したりはしますが、これも以外と流されません。カルシウムやマグネシウムは流されます。微量要素(ホウ素、マンガン、亜鉛、銅、鉄、モリブデン、コバルトなど)は、雨水での流亡はあまりないと考えてよいでしょう。
ハウスでの地床の場合は、これを裏返して考えると状況がわかります。
まずこの窒素の流亡が起きなくなります。カルシウムやマグネシウムの流亡も止まります。ということは、これらが蓄積するということです。
窒素が溜まる土、カルシウムもマグネシウムも失われない土とは、とても便利なようです。ところが、これを理解しない人間のほうが問題になります。
多くの農家が、圃場をハウスで覆った後も、露地で身に付けた習慣をそのまま続けるのです。今までと同じように、毎作の植え付け前に窒素、リン酸、カリを入れます。カルシウムやマグネシウムも入れます。
それを聞いて私が止めても、やめない人は多いものです。いくら聞いても、露地で身に付いた畑の観念、職業習慣が抜けないのです。
すると、どうなるでしょう。土は窒素過多、カルシウム過多、マグネシウム過多となり、適正領域をはるかに超えた状態になってしまいます。そうして、塩基が集積した土ができてしまうのです。
本来、施設園芸の土壌管理は何も難しいものではないのです。そこに携わる生産者が、土と肥料の原理を知らないことが原因で、土を難しいものにしてしまっているのです。
浅く耕し連作する害
ハウスでの地床栽培では、化学性だけでなく物理性についても、露地との違いがあります。
通常の大きさのパイプハウスでは、ハウス全体の大きさや開口部の高さの制限から、導入できるトラクタは小型の低い馬力のものに限られます。そのため、自ずと土を耕うんする深さが浅くなってしまい、ハウス内の土の作土層は極度に浅くなってしまいます。
さらに、たとえば小松菜やチンゲン菜など、耕うんする回数が多い作物では年間9回ぐらいになります。つまり、浅い作土で何回も同じものを植え付けては収穫するということを繰り返しているわけです。しかも化学性を見れば過剰成分が高レベルで溜まっているわけです。
この異常な状態では、作物に病害を発生させる土壌微生物はがはびこっても不思議ではありません。
残念なことですが、これが地床を使った施設園芸でよく見られる土壌管理の実態です。