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農業生産を行う現場を7つに分類し、それぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明している。今回は固形培地についての説明の最終回。地表の土を使わない栽培の理解が土壌のメカニズムの理解を助ける。
水耕の理解が土耕の理解を助ける
水耕栽培の養液は、作物が養分を吸い上げるので、その成分の濃度が刻々と変化していきます。そこでどうするかというと、センサーで養液の成分の変化を感知し、コンピュータが濃度や成分構成比をコントロールするしくみになっています。
「そこが土耕とは違う」と考えるのは、大きな間違いです。水耕栽培のコンピュータがしていることは、土耕の場合の土、土のコロイドがしていることを模したものと見ることができるからです。このことは、第19回でも説明しました。
土耕も、根は土という固形物に埋まっているように見えて、あれは実際には養液に接していることで生きているのです。この、水耕と土耕が、根にとっては実は同じという見方、感覚は大切なことです。
植物には体を支える場所は必要です。それが培地であり、湛液型水耕栽培では作物を浮かべる穴の開いたプレートなどです。そして根が必要としているのは、土というとらえどころのない物質に包まれることではなく、適正な成分を含んだ養液と空気が供給されることです。
水耕と土耕では、それらを作物に提供するものの形が違うだけで、本質は同じなのです。だからこそ、土壌を用いた農業をより深く知るためにも、水耕は学ぶべきことです。
土壌を使う農業をする人も、水耕栽培をしている農家と同様の見方と感覚を持てば、圃場の管理や施肥の方法、それらを研究する方向性が自ずと正確になってきます。
世間には「水耕栽培は土壌を用いた農業とは全く異なるもので、何としても受け容れられない」という人も大勢いるようですが、ここは頭を柔らかくしていきましょう。
砂の性質は一様ではない
さてもう一つ、砂を培地に用いた方法について見てみましょう。
「砂はやせた土の代表で、これでは作物はうまく育たない」と考える人は多いと思います。しかし、実際には砂は水分調整さえきちんとすれば、優秀な培地となります。砂を培地に用いた栽培はサンドポニックなどとも言い、この名を冠したサラダ菜などの栽培システムもありました。
砂を、ロックウールと同様にミネラルを供給してくれないものと見て、これまで説明したような養液栽培の一つと考えることもできるかもしれませんが、これがそう一筋縄ではいきません。一口に砂と言っても、性質はそれぞれに異なるのです。砂を培地に用いる場合、その砂が栄養的に富んだタイプなのか、そうではないのかということで、扱い方が大きく異なってきます。
たとえば千葉県の九十九里浜一帯にある砂は、各種成分をよく供給してくれます。一方、静岡県の大井川下流域の砂などは、栄養分の供給力に乏しいものです。
これらのように、性質の異なる砂を使って砂培地栽培をしてみると、管理のしやすさやその結果が大きく異なります。扱い方を変えなければいけないのです。
ロックウール培地なら、何も供給してくれないものと割り切って扱うことができますが、砂培地ではその砂の性質を考えてやる必要があります。純粋な培地的な栽培がある一方、そうとも言えないものもあるということです。砂がそういうものであると知っておくことは、全国各地の砂地農業に接する上でとても役立ちます。一様にやせたものではなく、また一様に扱えるものではないのです。
ロマンだけでは農業は理解できない
以上、固形培地を用いた農業を概観してきました。
一般に、農業は土という簡単には理解しコントロールすることができないものを相手にするということで、そこにロマンを感じたり、感傷的になる人も多いでしょう。
しかし、固形培地と水耕栽培の視点で見ると、栽培には即物的で、メカニカルで、冷徹な側面があることがわかるはずです。この先で露地の畑や水田がどうあるべきかを説明する回が巡ってきますが、ここまでの知識と見方は、そこで大いに役立ちます。
「土づくり」の一言ですべてを片付けてしまう農家、それを無批判に聞いてしまうバイヤーが、まだまだ多いものです。しかし、マーケティング用のロマンとは別に、栽培の現場ではもっと理化学的にとらえ、考える思考回路を持つ必要があるはずです。