栽培現場ごとの土の事情(2)固形培地によるハウス栽培(2)

栽培現場を7つに分類して説明する
(1) 育苗培土(野菜苗を中心に)
(2) 固形培地によるハウス栽培
(3) ハウスでの地床栽培
(4) 露地畑
(5) 水田での水稲
(6) 水田からの転作
(7) 海外での農業

農業生産を行う現場を7つに分類し、それぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明している。今回は、前回に続き、土壌のメカニズムの理解のために、地表の土を使わない栽培について説明する。

安定した環境のロックウール

 では、ロックウールを使った栽培について説明しましょう。

 ロックウールは前回も少し説明しましたが、見た目にはグラスウールのような形状をしています。どのように作るかというと、輝緑岩、石灰岩、コークスを混ぜて1500~1700℃の熱で溶融し、綿菓子を作る要領で繊維状にします。原料には、他に玄武岩や、銑鉄を作る際に出る高炉スラグを用いたものもあります。

 この資材の長所は、とにかく均一な培地ができる点にあります。何が均一かというと、繊維一本ずつの径がそろっていることから、作物の根の周囲にいつも安定した空気量、水分量の環境を維持できるということです。

 実際の栽培では水だけを与えるのではなく、この安定した無機物の培地に、これまた安定した無機肥料を水に溶かして与えます。こうすると、常に安定した環境と栄養を確保できます。一般の土壌での栽培のように、作物が吸える養分の量が変わっていないか、空気が入っていける空隙が確保されているかなどを気遣って、さまざまな管理をする手間が少なくなります。

味の評価は高くないロックウール

 ロックウールを用いたハウス栽培では、トマト、キュウリ、メロン、イチゴなどが、この理屈通りに安定して生産されています。

 ただし、その味には問題ありとされることが多いものです。一般論ですが、ロックウール栽培は安定供給には向いているが、おいしさには欠けるという評価はよく聞かれます。

 これは何が原因なのでしょうか。考えられることはいくつもありますが、培地が完全な無機化合物からできていて、その中でもとくにケイ酸分を高温で溶かしてまた冷却したということで、岩石由来とは言えミネラルの溶出はあまりないということが考えられます。こうした事情は、また砂栽培のところで出てきますが、大事なことです。

 次に与える肥料が無機肥料を水に溶かしこんだものであることも原因です。

 無機肥料とガラス状繊維は作物の根によってその根の作用で少しずつまわりを溶かし込むことは行いますが、それでも各種微量要素の溶け出しは期待できません。

水耕は高コストだが重要な技術

 次に水耕栽培について説明しましょう。

 水耕栽培は根を水だけで育てるもので、収穫後あるいはトマトのように長期間利用できる作物のキを更新するごとに培地を交換する必要がありません。よい源水があればできる方法です。

 ちなみに、よく行われる湛液型水耕という、プール(ベッドと言います)に溜めた養液に根をはわせる方法では、作物1株当たり、トマトでは15l程度、レタスでは5lほどの水を用います。

 ただし、この水をたえず動かしておく必要があり、そのポンプのエネルギーコストがかかります。また、夏季に水温が上がると作物の根が求める酸素量も大きく増加し、これが生育を制限することになります。先進的な生産者は養液の冷却装置を導入していますが、当然その機器のコストとエネルギーコストが増し、解決が難しい問題でもあります。

 また同じベッドの作物の根はすべて同じ水に依存していることから、いったん病害が発生すると激しく伝播することも問題です。

 そもそもの問題として設備投資が大きいということがあるのですが、ランニングコストを見ると土耕のようには肥料代がかからないという特徴がありました。しかし、このところ水耕専用肥料の値上がりが甚だしく、これも課題となっています。

 とは言え、たとえば水耕栽培のホウレンソウなどはさっぱりとしてたいへん食べやすく、私はこうした味の仕上がりは水耕ならではと感じていて、やはり必要な技術ではないかと見ています。(つづく)

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。