(1) | 育苗培土(野菜苗を中心に) |
(2) | 固形培地によるハウス栽培 |
(3) | ハウスでの地床栽培 |
(4) | 露地畑 |
(5) | 水田での水稲 |
(6) | 水田からの転作 |
(7) | 海外での農業 |
農業生産を行う現場を7つに分類し、今回からそのそれぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明していく。
栽培現場を7つの体系に分ける
農業は、実際にやったことのない人には理解しがたいことが多いものだと思います。筆者も、大学を卒業した後22歳から家業の農業に携わりましたが、実際に農業経営を行ってきたからわかるということがたくさんあります。
とは言え、仕事などで農業にかかわりはあるものの、農業をやったことはないという人にこそ、農業のことをわかっていただきたいのです。それは、みなさんの仕事にも役立つだけでなく、生産者とよい連携をして、農業界を変えていくにも大切なことです。
では、何をどのように考えたり、調べたりすればよいのかということになりますが、一口に農業と言ってもさまざまな種類があり、ひとくくりにして説明するのは不可能です。
そこで、試みに栽培現場を7種類に分類して解説していこうと思います。分類は表をご覧ください。
これでも農業の多様さからするとざっくりとした分類かもしれませんが、あまり細かく分けると、それぞれが興味を持っているものが分類上のどれであるかわからなくなってしまいます。
(1)育苗培土
今回は、このうち(1)育苗培土、とくに野菜苗用を中心にして説明します。
培土というのは、培養するための土のことです。
ちなみに、作物が生育する過程で、根もとの部分に土を寄せてやることを「培土する」と言います。「培土機」「培土板」と言えば、「培土する」ための道具や部品です。今回の「培土」はそのこととは違って、苗を培養するための土のことです。
さて、野菜の苗を育てるための土は、20年ほど前までは農家が自前で作るものでした。しかし、現在は専門メーカーが作ったものを購入するという時代に変わりました。自分で作る時間がなかったり、山などから土を取ってくるのがたいへんだったり、失敗してコストのかかる種をむだにしたくないといったことから、そのようになりました。
さて、農家が育苗培土を買うようになると、農家・農村に変化が起こりました。農家が、出来た苗の質に敏感になったのです。それまではタダで出来た育苗培土(実際には農家は働いていますから、タダというのは農家にとって見かけ上のことです)が、お金を払って入手するものになったことで、農家が真剣になったわけです。また、各種の市販育苗培土を比べることも、産地で盛んになりました。
野菜用の育苗培土には、レタスのような葉物野菜にターゲットを絞ったもの、トマトやメロンのような果菜類専用のものとに分けられますが、いずれも多くの種類が販売されています。また、一般の人が家庭菜園などで使うホビー用のホームセンター培土というものもあり、使う人のレベルに合わせた製品が揃うようになっています。
苗の量と質の両立が求められる時代に
植物の種子が発芽するという生育段階は、たいへん繊細なものです。そして、発芽の環境と発芽・生育の実際との間にはある法則性があるように、植物は振る舞います。
種子はまず、種子に蓄えていた栄養分を頼りに激しく細胞分裂を始め、やがて周囲の土に根を張り始め、その根から酸素、水、栄養を取り込み始め、さらには地上部に子葉を展開して光合成を始め、その光合成から得たさらなる栄養・エネルギーで本葉を展開していきます。この過程で何かの障害があると、その後のすべてに悪影響が出るものです。
また、各農家はさまざまな場所を自家の苗場と決めていますが、その場所による違いも、その後の生育段階に明確な差として現れます。
同じレタスの種子を買って来て同じ時期に播種しても、その苗場の環境と育苗培土の違いが、結果に大きな影響を及ぼします。この違いは、トマトなどではなおさら大きなものです。
一方、今の農家は経営上の要求として規模を拡大する傾向にあります。ということは、苗の数も多く必要になっていきます。しかし、以前は、良質な苗の生産と数の増加は両立しがたいものでした。その困難なことをやり遂げることができるようにならなければ、経営の拡大は不可能だということです。(つづく)