海外土壌と有機物(2)

米国のトウモロコシ圃場
米国のトウモロコシ生産では前作の茎・葉・根をそのまま残しておく方法が普及している

日本の土壌と海外の土壌の違いの3回目。日本の圃場では堆肥などの有機物を多投しなければならない事情がある。海外の圃場ではその要求はないが、長年にわたって堆肥以外の有機物を施すことは行われてきた。

 では実際に、有機物を施用しなくても土壌が劣化したり生産力が落ちたりしないということなどあるのでしょうか。もちろん、場所ややり方で違いはありますが、あるのです。

 もともと土壌に有効成分をたっぷり含んでいる耕地では、作物生産で成分を奪い取ったとしても、それで起こる劣化は日本のそれとは比べものにならないほど軽微なものです。

有機物施用が欠かせない日本

火山灰土
日本の火山灰土は色こそ黒いが有効に働く腐植は少ない

 この違いには、やはり年間の降水量も関係しています。年間1500~2500mmもの降水量がある日本では、土壌に入った有機物由来の腐植が消耗する程度が激しいのです。

 たとえば福島県白河あたりとか、愛知県矢作川流域とか、山陽新幹線沿いに見える畑の多くなどは、そのことをよく表しています。これらの土は白っぽいもので、黒い腐植分はあまり目につきません。黒味を帯びているのは表層の少しの部分だけです。

 こうした地域の土は、花崗岩由来などの土で火山灰土壌ではありません。これらの土壌では、有機物と土壌の粒子が結びつきにくく、多量の降水で腐植が消耗してしまいます。

 一方、火山灰土壌では、リン酸成分を効かせるためには堆肥などの有機物施用が必要だということは、連載第20回~22回でお話した通りです。

 こうした事情から、日本ではせっせと堆肥などの有機物を施用する重労働がなければ、圃場を維持できなかったわけです。それほどやせきった土ということになります。

海外では腐植の消耗が軽微

 それに対して、海外で農業生産性の高いようなところの土壌は、見るからに黒い腐植があるとわかるような土です。その腐植はたいへんな長い年月をかけて作られたもので、しかもその蓄積量は、黒くは見えても効果のない見かけ倒しの日本の火山灰土壌の比ではなく、言わば“本物の土壌腐植”と表現してもよいようなものです。

 ここが大きなポイントです。

 海外の土壌は、まず降水量が少ないなどから腐植の消耗が少ない。こうした土壌で作物を栽培しても、それまでの蓄積が多いことから、消耗量は多くはありません。営農によって土が劣化する程度が少ないのです。

 また、やはり降水量が日本のように多くないことから、土壌生成に伴う鉱物の風化作用が激しくなく、土壌中にまだ十分に有効成分が残っていることも大きな違いです。

 こうしたことからアメリカ大陸、ロシア、ヨーロッパなど多くの海外大規模農業地帯では、耕地と農業の根本が日本のそれとは異なり、日本の堆肥作りのようなスタイルでの有機物施用は行われていないわけです。

多年にわたって有機物を入れる

米国のトウモロコシ圃場
米国のトウモロコシ生産では前作の茎・葉・根をそのまま残しておく方法が普及している

 しかし、有機物施用自体が全く行われていないかというと、実はそうではありません。堆肥を作るということをしない地域でも、ヨーロッパなどでは作物の茎葉などの収穫残さを圃場に還元することや、緑肥を栽培して圃場に還元するなどのことは積極的に行っていて、しかもそれは長い伝統ある努力なのです。

 つまり、腐植が蓄積していくほどに消耗が少ないだけでなく、日本とは違ったスタイルでの有機物施用が、長年続けられてきたのです。

 これに加えて、土壌への負荷を軽減するもう一つの技術も長い年月にわたって実践されてきました。つまり、同じ作物をいつも同じ圃場には植え付けることをせず、同じ作物を同じ圃場に植え付けるには、時間の間隔を取るということをします。つまり輪作です。

 日本の農家には、海外の農業の話になると「あれは粗放だ」と言い放つ人が少なくありません。堆肥施用の重労働と圃場を美しく保つ丁寧な仕事からすればそう見えるかもしれませんが、海外には海外の耕地の選び方と、土壌を消耗させない多年の知恵と努力があるのです。その歴史が、大きく実力を発揮しているというわけです。

アバター画像
About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。