土を形づくる4つの要素

前回は、身近な物質でありながら、とらえどころのない土について、その誕生プロセスを見てみました。少しおさらいをした上で、土の組成のポイントを整理しましょう。

元の岩石の残りの造岩鉱物。土1gに何億もいる生物

 まず押さえておきたいのは、岩石が温度変化や降水などによってボロボロになるという点です。もとの岩石から崩れた塊はその後も次々と細かく砕かれる作用が続き、硬い岩もついには粉のようになっていきます。

 このように岩石が風化して土になるのですが、この作用を経て岩石のすべてが砕かれて別のものに変わってしまうかというと、そうではありません。中には細かくはなっても元の岩石の性質を保ったまま残るものがあります。

 身近な土を平らな皿などに取ってよく観察すると、細かな砂粒のようなものを見つけることができるでしょう。これを造岩鉱物と言います。

 土をそうしてより分けて観察してみると、次に見つかるのは生物です。前回の土の誕生のプロセスの説明でも、それぞれの段階で各種の微生物、光合成する藻類やコケの仲間などが活躍して有機物を作り出すことを説明しましたが、それらを見つけることができます。

 植物以外に、ミミズやセンチュウといった土の中ならではの生き物など動物も生息しています。

 詳しく調べて計算すると、たった1gの土の塊の中に、何億もの微生物がいるといったことは決して珍しいことではありません。土を仕分けると生物がいるという事実を覚えておいてください。

黒い土の色は腐植によるもの

 さて、土と言えば真っ黒なものというイメージを持っている人も多いと思います。これは関東平野の軽く黒い土に代表される種類の土です。この真っ黒な色は、土に含まれる有機物である腐植によるものです。

 前回も説明したように、土の誕生プロセスの中で光合成をする植物が登場する段階になると、そこに棲む微生物の数と種類が著しく増えます。そしてそこに育つ植物の種類も増え、大きなものも現れます。

 光合成をする植物は有機物を作り、これが分解し、土に固有の有機物に再合成され、腐植という要素になります。腐植は栄養を多く含み、よく水分を保持し、また土に隙間を作って空気を含ませる役割もあります。このために、光合成をする植物の登場で、生物の数と種類が一気に増えるわけです。

 また、腐植は前述の造岩鉱物の破片と組み合わさることで、さらにさまざまな作用を引き起こすようです。

 土を仕分けると、腐植という有機物が発見できるという事実も覚えておいてください。

粘土鉱物は土の栄養貯蔵庫

 ところで、土遊びをした幼少の頃を思い出してください。泥んこ遊びのとき、土に水を含ませると粘りを示すことは、経験者ならわかるでしょう。あの粘りの原因は何でしょうか。「粘土を含むから」「粘土そのものだから」と答える方が多いと思います。

 ここで土壌学登場です。土壌学ではこれを粘土鉱物と呼びます。岩石が風化すると岩石の成分は一度バラバラになり、土ができていく作用の中で、それまでの岩石に含まれる鉱物とは全く異なる配列の結晶が生成されます。これが粘土鉱物で、植物がそこで育つ上でとても大切な物質です。

 中学校の社会科で世界四大文明の発祥について習ったでしょう。大きな河川の氾濫によって、肥沃な土が下流の平野に運ばれ、それが大規模な農耕を可能にしたという話であったはずです。まさにその作物を育てる能力として重要なものが粘土鉱物です。

 粘土鉱物は水を含むと膨らみ、手触りは軟らかく、ツルツルした感じです。

 農業をする上では、粘土鉱物は作物の栄養を一時的に蓄えておく役目を果たします。これを土の保肥作用と言います。土の中で動植物の死骸や排泄物が分解すると植物の栄養となるものが一時的に放出されますが、せっかくの栄養も雨で流されて流亡したり、地下へと無駄に垂れ流してしまうものです。また、外部から栄養を得られない状態になることもあります。

 これに対して、粘土鉱物の保肥作用はいわば土の栄養貯蔵庫の働きをします。植物は粘土鉱物が蓄えた栄養を少しずつ取り出して、急場をしのぐことができます。この保肥作用については、後日、土の化学的働きのところで詳しくお話します。

土は4つの要素でできている

 ここまでのところで登場したものは以下となります。

(1)造岩鉱物――岩石が風化作用を受けても耐え残ったもの。

(2)生物――下等なバクテリアやアメーバから高等生物まで。土の誕生からその後の土の機能まで、生物の存在なしに土を語ることはできません。

(3)腐植――有機物が分解し、土に固有の有機物に再合成されたもの。

(4)粘土鉱物――造岩鉱物が分解され、土が生成する過程で元の岩石とは別の配列を持つ結晶となったもの。

 土とは、この(1)~(4)の要素が混ざったものということです。

 ところで、「では砂は土か?」とよく聞かれますが、砂も土の一種です。造岩鉱物が割合としてたいへん多く、粘土鉱物はごく少なく、腐植も少なく、生物の生息もあまり多くない土、ということになります。

 土の組成についてはこの後も続けてお話します。

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。