ワイン用パッケージのほとんどは段ボール製だ。一般に縦箱よりも平箱の方が堅牢に出来ているが、強度が同じだった場合、メリットがあるのはどちらの形だろうか。また、縦箱を倒立させて積み付ける場合は少なくないのだが、その理由はなぜか。
ワインの縦箱と平箱の構造と強度
結論の一部を先に出ししてしまったが、話を前回の「箱にピントがあった」時点へ戻したい。
この時点で、私の関心は“静置したワインと輸送荒れを起こしたワインとの比較”から「正立縦箱輸送ワインと横臥平箱輸送ワインの比較」へと移った。
さて、縦箱に収納したワインの現実の輸送、たとえばフランスから日本へリーファー・コンテナに積み込んでコンテナ船で運ぶ場合の縦箱は、どのような向きで積載されているとお考えになるだろうか?
縦箱にも、本体が木材を使用している場合と段ボールを使用している場合があるが、縦箱の大半は段ボール製である。以降しばらくは、この段ボール製の縦箱に限定して話を展開したい。
まずワイン用縦箱段ボールは、一層構造の段ボールを使用している場合が大半である。この段ボールの強度は、素材の紙質だけでなく、波型芯材の紙質やループ幅・フルート密度(段ボール断面の波状部分の密度)・接着剤の質、さらには何層構造であるか等で異なり千差万別だが、残念なことに縦箱に使用される段ボールは平箱に使用されるものよりも強度の脆弱なものが多いのが現状である。
「ワインのリーファー・コンテナ輸送」を始めた当初の思い出だが、縦箱の場合、夏期の荷下ろし作業の最中には、段ボール箱に結露が生じ接合面の糊が溶け剥がれたり、段ボール構造そのものの糊付けが溶け剥がれたりする事故にも直面したものである(第26回、第29回参照)。
正立・倒立・横倒し、それぞれの狙い
さて、これをコンテナ内に積み付ける方法は2つに大別される。一つはボトルの入ったパッケージを直接に積み上げて行く場合で、いま一つはパレットに予め数段単位で積み上げた状態のものをコンテナ内に2段あるいは3段に重ね積みする場合だ。このとき、縦箱をボトルが横向きになるように倒して置き、これを3段あるいは4段重ね積みした場合は荷崩れ事故や破損事故を起こしやすい。これは縦箱の中仕切りが荷重に対応した強度を有していない場合が多いためであり、さらに箱本体も天地ではなく左右からの荷重が加わる場合を想定していない場合が多いためである。
したがって、コンテナへの積み付けではビン口が上を向く正立の状態で、あるいはビンが倒立する状態で、重ね積みされているのが普通である。
ボトルは上を向かせるのが自然な発想であり、しかもビン口を上に向けた正立の状態の積み方のほうが煮崩れはしづらい。それなのに倒立状態にする場合があるのはなぜだろうか。それは、輸送に要する所要時間が長く、正立状態ではコルクの乾燥萎縮を起こしてしまうことが予想される場合である。
では、高級ワインはなぜ平箱輸送されているのだろうか?
ワイン・セラーで静置貯蔵するときに横倒し状態にしているのは、コルクの乾燥萎縮を防いで瓶内の気密性を維持するためである。高級ワインが平箱を選択採用しているのも、この状態を維持するためにと考えてよい。
ただ、ここで考えてみたいのは、もしその平箱が、安価なワインの縦箱用と同程度の強度の段ボールで作られていたらどうなるかだ。答えは明白である。ワイン輸送をリーファー・コンテナ輸送へ転換し始めた時期、平箱入り高級ワインでの方が荷崩れ事故は頻発していたのである。とくに、箱の接合部の糊付けが溶け剥がれる事故が頻発した。
現在の平箱に使用されている段ボールは、紙質やループ幅・フルート密度・接着剤の質等が縦箱よりも上等なものが大半である。さらには2層段ボール製を使用している場合も見られ、中仕切りにも強度補強の工夫を施されたものが多い。これは、平箱が高級ワインに使用されることが多かったため、改良の対応が素早かったのだと推察できる。事実、この改良はフランスの2大産地、ボルドーの「6本×2段」タイプと、ブルゴーニュの「6本×2段」タイプおよび「4本×3段」のワイン・パッケージに顕著である。
半面、縦箱タイプは大量生産型ワインのパッケージとして使用されることが多く、その改良は接着糊の変更に留まっている場合が多い。
縦箱と平箱を比較するのに際して、両者の材質を良質なものに揃えて比較するとどうなるだろうか?