前回は、コルクを打栓したボトルのワインは、コルクが接していた瓶口内壁にワインの香味を損なう不快物質が付着していることを説明した。これによる汚染を防ぐには、抜栓後に瓶口内壁を拭き取ることと、ワイン・ボトルを回転させながら1杯目を注ぐことだ。その方法について説明する。
コルク栓ワインの香味を損なわない注ぎ方
前回、通常の開栓では、ワインの1杯目と2杯目は苦味があり香味の立ちが悪くなることを説明した。
しかし、ワイン・ボトルを開けるたびに1杯目と2杯目のワインを捨てていたのではもったいないことこの上ない。捨てるワインをなんとか最小限に抑えながら、瓶口を洗い流す方法はないかと考えた。
そして編み出した方法を説明する。
まず、抜栓して最初に注ぐときに、ワイン・ボトルを回転させることだ。1杯目のワインを注ぐとき、手首を捻って半回転させながら1杯目を注ぐと、瓶口を360度洗い流すことができる。これにより、2杯目以降のワインに異臭・異味が付くことをおおよそ回避できるとわかった。
さらに2杯目を確実に救済するには、ティッシュを使う。無味無臭と確認できたティッシュを用意しておき、コルク栓を抜いた直後に、ティッシュを小指にからめて瓶口に差し込み、内壁を可能な限り拭き清めるのだ。これをした後に、前記のようにボトルを回転させながら、1杯目を注ぐ。
これらを思い付いて実行してみると、犠牲にするワインの量は確実に減った。
これらを行う際に注意すべき点は、まず使用するティッシュは無味無臭であることを確認すること。そして、ボトルを回転させながら注ぐときは、ボトルを傾斜させてコルクが打ち込まれていた下端よりも上にワインが到達してから注ぐ作業を中断してしまうことは絶対に避けることだ。もしそうなると、ボトル内のワイン全体に異臭・異味が移ってしまう。この場合、同席者は同じ味を共有できるが、「このワイン、イマイチだね!」「ホント! ホント!」なんてことになってしまう。
同じ理由から、パニエ(ワインバスケット)やデカンタを使用するときも配慮が必要となる。
パニエ使用の場合は抜栓時に注意が必要である。抜栓前に瓶内でコルクとワインの液面が接触している場合、そのまま抜栓してしまうと瓶口内壁に付着残留している不快物質で瓶内のワイン全体を汚染させてしまうからだ。セラーにあったときから一度もボトルを立てたくないという向きには抵抗があるだろうが、抜栓はボトルを立てた状態で行い、瓶口洗い流しの後にパニエにセットした方がよい。
デカンタ使用の場合も、すべての作業はいったん瓶口洗い流しのための1杯を注いだ後である。
ソムリエが行ってきた古い作法には合理性がある
この作法を編み出して数年経過してみると、所作に慣れるにつれて犠牲にするワインの量はさらに少なくなってきた。そしてあることを思い付いて、机の引き出しの奥をひっくり返して、タートヴァン(試飲用の銀器)を引っ張り出した。この方法で注いだ1杯目を量ってみると、不器用な私でも、犠牲にするワインの量はタートヴァンにギリギリ1杯分で収まっていた。
思い付いたあることとは、ソムリエが行ってきた作法のことだ。
古い記憶をたどってみると、昔のソムリエの方々は、ワインのコルクの抜栓に際して、よく水洗いして固く絞った清潔なガーゼを用意していた。彼らはキャップ・シールをはがした瓶口をそのガーゼで拭き清めた後に抜栓し、さらにガーゼを清潔なものに交換してそれを小指に絡め、コルクを抜いた瓶口にその小指を差し入れて瓶口内壁を拭き清めていた。
ただ、そのガーゼの湿らせ加減は非常に難しいと聞いたことがある。絞り方が固すぎればよく拭き取れないし、甘ければ水滴が瓶に入ってしまう。
また、グラスにワインを注いだ後に、“液ダレを防止するため”としてボトルを捻る所作は、現在も行われている。これも、グラスに注ぐ際常に行う所作ではなく、実は最初の1杯をグラスに、あるいはタートヴァンに注ぐときの所作ではなかったのではないだろうか。
また、一部のソムリエたちについて言われる“評判の悪い行為”、すなわち、「今日からちょっとワイン通」の著者山田健氏流のユーモアで言うなら「『僕のワインを勝手に飲まないで!』行為」にも、多少の正当性があることになる。もしも、「コルク栓を使用したワインの最初の1杯目はまずい」ということを誰もが理解していれば、ソムリエが最初の1杯をグラスやタートヴァンに注いでそれを飲んでしまうことは、お客さまに面倒なことをさせないサービスであると弁護できないこともないのである。