みそは、地域ごとに特色ある製品が造られている。調味料としてはもちろん、多様な“なめみそ”も食卓に欠かせない。「手前みそを並べる」等、豊富なことわざからもわかるように、みそは日本人の生活に密着した重要な食材なのだ。しかしながら、生産量は減少傾向が続いている。その価値をもっと見直したいものである。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
みその歴史と分類
飛鳥時代の701年、大宝律令が制定されている。この中に、「未醤」(みしょう、みさう)の記述が認められる。豆の粒が残っている醤(ひしお)を意味し、みその原型とする説が有力である。戦国時代には、兵糧として重視され、各地の武将はみそ造りに力を注いだという。その結果、地域ごとに特色のあるみそが発達し、惣菜として食されていた。現在のように、調味料としての活用が定着したのは江戸時代になってからのことである。
みそには、使用する原料により米みそ、麦みそ、豆みそがある。いずれもダイズを主原料とする点に変わりないが、麹(こうじ:麹菌を生育させた穀類)を造る原料により呼称が異なる。米みその場合、蒸煮したコメに麹菌を生育させて麹を造る。蒸煮ダイズに、米麹と食塩を加えて醗酵させると米みそができる。麦みそはオオムギまたはハダカムギ、豆みそはダイズで麹を造る。これら3種類以外は、調合みそに分類される。
JAS(日本農林規格)は、JAS規格制度と品質表示基準制度の2本柱からなる。上記分類はその「みそ品質表示基準」による。意外であるが、みそにJAS規格は存在しない。「みそ健康委員会」発行の「みそ知り博士のQ&A50」では、以下の2つの理由を挙げている。
(1)種類や造り方が多様なため、明確なグループ分けが困難。
(2)加熱殺菌しない製品が多く、微生物による醗酵が継続する。このため、理化学的な分析値を一定に保つことができない。
みそには白(淡色)みそ、赤みそという区別もある。塩分を低めにして短い醗酵期間で造ると白みそになり、塩分を高くして醗酵熟成を長くすると赤みそになる。
米みそ、麦みそ、豆みそ以外は調合みそになるが、その範囲は広い。
(1)2種以上のみそを混合したもの。
(2)2種以上の麹原料を使用したもの。
(3)コメ、オオムギ、ハダカムギ、ダイズ以外の穀類(コムギ等)を使用したもの。
(4)さまざまな副原料を加えた“なめみそ”。
(1)(2)(3)は調味料としてのみそである。さらに、惣菜として食べられる(4)なめみそも調合みそに含まれる。
なめみそに加える副原料は、魚(鯛、エビ等)、食肉(鶏肉、牛肉等)、野菜(ゴボウ、シソ等)、その他(ユズ、ナッツ等)と多様である。
また、なめみそは「醸造なめみそ」と「加工なめみそ」に分けられる。前者には、ひしおみそ、径山寺(金山寺)みそ等があり、副原料は主原料と共に醸造工程を経ている。筆者の好物ピーナッツみそは千葉県の特産品で、代表的な加工なめみそになる。この他にも、鯛みそ、ゆずみそ等があり、みそに副原料を混合して製造する。
生産量と輸出量の推移
麦みそは九州と山口県、愛媛県、豆みそは東海地方を中心に造られている。それ以外の地域は米みそになる。したがって、生産量では米みそが約80%と圧倒的に多く、麦みそと豆みそが各5%、調合みそが10%を占める(全国味噌工業協同組合連合会集計2011年)。消費量は地域により差があり、北海道、九州が多く、近畿、中国、四国は少ない。米離れや人口減により、みその生産量は減少が続いている。2011年の国内出荷数量は43万tである。2000年は50万tだったので、毎年1%強減少していることになる。
一方、日本食ブームを背景に、国外では日本みその需要が高まっている。輸出は拡大傾向が続き、2010年には1万tを超えた。輸出先は米国が突出して多く、32%を占める。ほか、アジア圏が38%、欧州が16%となっている。
東アジア各地には、日本みそと通じるダイズや穀類を主原料としたペースト状の醗酵食品が広く分布する。その例が中国の甜麺醤(テンメンジャン)、豆板醤(トウバンジャン)であり、韓国のテンジャン、コチュジャンである。個々の国により傾向は異なるが、日本みその輸出量は、アジア圏全体でも増大している。
みそに関することわざ
従来、みそは農家や家庭における手造りが多かった。これを反映したことわざがある。
・手前みそを並べる
・五割の金を借りてもみそを造れ
・みそ買う家は蔵が建たぬ
・みそが酸っぱくなるとその家に不幸がある
手造りとはかかわらないことでも、みそのことわざは他にもたくさんある。みそはことわざも調味していたのである。
・医者に金を払うよりも、みそ屋に払え
・医者とみそは古いほどよい
・女房とみそは古いほどよい
・みそをつける
・糞もみそも一緒
・みそ豆は七里帰っても食え
・みそ汁は朝の毒消し
・みそ汁は煙草のヤニを払う
現在ではピンとこないものもあるが、関係することわざがこれほど豊富な食材は他に例を見ない。このことからも、日本人の生活に密着した重要な調味料であることを改めて認識したい。