ダイズはタンパク質と脂質を多く含んでいる。しかも、それらの質が優れている。炭水化物やビタミン、ミネラルも含めて栄養面でも大きな貢献をしている。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
ダイズの栄養成分
2010年、上海で万国博覧会が開催された。大阪は1970年だったが、万博はずいぶん昔から続いている。明治時代初頭の1873年、ウィーン万博に日本政府はダイズを出品。このダイズを調べたドイツの学者が「畑の肉」であると絶賛した。タンパク質が食肉並に高かったからである。
ダイズ(国産、乾)の栄養成分値は、水分12.5%、タンパク質35.3%、脂質19.0%、炭水化物28.2%(食物繊維17.1%)、灰分5.0%である(五訂食品成分表)。タンパク質と脂質含量が高く、食肉に匹敵するという表現は誇張ではない。注目すべきは、タンパク質と脂質の質である。
質と言われても戸惑うだろうが、タンパク質の話から始めよう。
アミノ酸スコアとは何か
タンパク質は、身体の筋肉やコラーゲン、生命活動を支える酵素の、それらそのものである。20種類のアミノ酸でできているが、ヒト体内で合成できるアミノ酸は11種類。合成できないメチオニン、フェニルアラニン、リシン(リジン)、ヒスチジン、トリプトファン、イソロイシン、ロイシン、バリン、スレオニン(トレオニン)の9種のアミノ酸は、食品から摂らなくてはならない。これを必須アミノ酸と言う。成長期に不足しがちなアルギニンを加えた10種を「雨降り一色バス(あめふりひといろばす)」と覚えたことを思い出す方もあるだろう。
タンパク質の合成は、最も少ない必須アミノ酸により制限される。食べ物に含まれる必須アミノ酸のバランスの程度をアミノ酸スコアという。一般の食肉・牛乳・卵・魚肉の場合、最高値の100である。これに対し、アミノ酸の偏りがある植物性のアミノ酸スコアは、白米65、小麦40、コーングリッツ32と低い。ただし、ダイズは100と高い。ダイズは食卓を豊かにしているだけでなく、栄養面でも重要な食材なのだ。
脂質の質
「ヨヨイのヨイ」という語感だが、シシツのシツ(脂質の質)にも触れておこう。
脂質の多くを占める脂肪はグリセリンと3つの脂肪酸が結合したものである。エネルギーや身体を作る成分になる。脂肪酸の種類がここで言う質だ。ダイズ油中の脂肪酸は、リノール酸5割、オレイン酸2割、パルミチン酸1割、その他2割からなる。前二者が不飽和脂肪酸であり、リノール酸は体内で合成できない必須脂肪酸でもある。
なお、食肉に多く含まれる飽和脂肪酸は、動脈硬化を招く原因の一つと考えられている。適量を摂ることと、魚をメニューに加えるなどバランスをとることが重要である。
炭水化物・ビタミン・ミネラル
ダイズの炭水化物には食物繊維が多く、一般の穀物に多い澱粉はほとんど含まれない。食物繊維は便通を整えたり、脂肪の吸収を穏やかにしている。ビタミンはB群やEを多く含んでいる。灰分中のリンやカルシウム・カリウム・鉄・マグネシウムといったミネラルの含量も高くバランスがよいことも指摘しておこう。